これぞFunk
Herbie Hancockここにあり
1975年7月、サンフランシスコ、ウォーリー・ハイダー・スタジオ、ファンキー・フューチャーズおよび
ロスアンゼルス、ヴィレッジ・レコーダーズ、クリスタル・スタジオにて録音、独特なアルバム・
ジャケットはダリオ・カンパニールの手によるものだ
マイルス・デイビスの怒濤のようなセッションにおいて、自身の中の音楽的変貌をもっとも劇的に
遂げたのはハービー・ハンコックだと思う
生粋のアコースティック・ジャズ・ピアニストだったハービーはマイルスとの時間の中で完全に" 改造 "
され、そして誕生したのは音楽史上で類を見ないほどの音楽的多重人格者だった
1973年の" ヘッド・ハンター "以来、ハービーは急速に自らの中に発生した新しい音楽的人格を
発展させていく…つまり" エレクトリック・ハービー "である
§ Recorded Music §
1 Hang Up Your Hang Ups - ハング・アップ・ユア・ハング・アップス
2 Sun Touch - サン・タッチ
3 The Traitor - ザ・トレイター
4 Bubbles - バブルス
5 Steppin' in It - ステッピン・イン・イット
6 Heartbeat - ハートビート
§ Personnel §
Herbie Hancock - ハービー・ハンコック( Key )
Wayne Shorter - ウェイン・ショーター( Sax )
Ernie Watts - アーニー・ワッツ( Sax )
David T. Walker - デヴィッド・T・ウォーカー( G )
Paul Jackson - ポール・ジャクソン( B )
Stevie Wonder - スティーヴィー・ワンダー( Hca )… etc
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この" マン・チャイルド "聴いてみると奥深く、広がりがあり、路線としては表面的にはジャズから
アプローチするファンク・ミュージックだが、それだけではない
" ハング・アップ・ユア・ハング・アップス "は、" カンタロープ・アイランド "のようなキャッチーな
魅力いっぱいのファンク・ナンバーで、冒頭のギターのリフだけで完璧に持っていかれてしまう
そこにマイク・クラークとポール・ジャクソンのお馴染みのリズム・セッションが入ると、この
アルバムの路線が一気に広がっていく
曲の後半には美しい音色でハービーのアコースティック・ピアノ・ソロが入る
背後では攻撃的なリフが刻まれ、前面ではブラック・ミュージックならではのグルーヴ感でベースが
跳ねる
この曲はそう単純なものではなく、ジャズにとってファンクはアート・ブレイキーやホレス・シルヴァー
の時代からひとつの要素としてあったし、ブルーノートからリリースされるアルバムの多くが、そういう
傾向のディレクションをされていた時もある
しかし、そうしたジャズ畑の中からはハービーのように振り切ったファンク・ジャズ・ミュージックは
生まれなかった…これはサウンド・デザインの問題になる
まずハービーは、身近な実例としてマイルス・デイビスの姿勢を見ていたので、音楽の質を変えることに
及び腰ではなかったし、それをやるときには徹底して勇気を持って飛び込んでいくものだという信念と
実戦経験があった
それとハービーはピアノ・トリオに代表される純潔主義に興味がなく、腕に自身のあるピアニストなら
必ず吹き込むピアノ・トリオ・アルバムが極端に少ない
そういうハービー・ハンコックだからこそ書ける曲であり、作れるアルバムである
" ヘッドハンターズ "に始まり、" スラスト "に続き本作" マン・チャイルド "はハービー・ハンコックの
いわゆるブラック・ファンクの三部作である
わかりやすいリズムの強調とシンセサイザーなどのエレクトリック・インストゥルメントの全面的な導入
ベニー・モウピンのソロとハービー自身のエレピのソロによるジャズ・フレーバーが特徴といえる
" スラスト "以降はワー・ワー・ワトソンのギターのカッティングが隠し味となっている
ハービーはこの頃、スティーヴィー・ワンダーの名盤" キー・オブ・ライフ "にも参加していて、その
お返しにスティーヴィー・ワンダーが本作に参加、それだけではなくスティーヴィー・ワンダーは
シンセサイザーによるワンマン・オーケストレーション志向、ブラック・コンテンポラリー・
ミュージックのポピュラリティ志向など、ハービーのその後の活動に影響を与えている
特にこのアルバムを境にして、ハービー・ハンコックの活動はエレクトリック・ミュージックと
オーソドックスなジャズの2本立てになっていく
本作はジャズとエレクトリック・ミュージックが同じウエイトで混在していた最後の作品といえるかも
かもしれない