Soundtrack From the Film " MORE " 映画『 モア 』のサウンド・トラック
1969年リリースのPink Floydの3rdアルバム
ピンク・フロイドは、バルべ・シュローダー監督の映画『 モア 』の音楽を担当し、このアルバムは
そのサウンド・トラック・アルバムである
ピンク・フロイドが後に発表する大作志向の作品群" 原子心母 " " 狂気 "などとは異なって、このアルバム
はブルース、カントリー、フラメンコ調の曲が数多くテイクされていて、ピンク・フロイドの音楽的な
ルーツを探る上で興味深いアルバムになっている
映画『 モア 』は、ドラッグと女で壊滅する青年のストーリー
映画映像と見事にマッチした小曲集になっていて、60年代末の迷走するヨーロッパの若者の退廃的な
世界を実によく表現している
§ Recorded Music §
1 Cirrus Minor - サイラス・マイナー
2 The Nile Song - ナイルの歌
3 Crying Song - 嘆きの歌
4 Up the Khyber - アップ・ザ・キーバー
5 Green is the Colour - グリーン・イズ・ザ・カラー
6 Cymbaline - シンバライン
7 Party Sequence - パーティの情景
8 More Theme - " モア "の主題歌
9 Ibiza Bar - イビザ・バー
10 More Blues - " モア "のブルース
11 Quicksilver - クイックシルヴァー
12 A Spanish Piece - スペイン風小曲
13 Dramatic Theme - 感動のテーマ
§ Band Member §
Roger Waters - ロジャー・ウォーターズ( Vo,B )
David Gilmour - デヴィッド・ギルモア( Vo,G )
Richard Wright - リチャード・ライト( Key )
Nick Mason - ニック・メイスン( Ds )
初期のピンク・フロイドの音は感覚的だと思う
意識と無意識の曖昧な境界あたりを、穏やかに吹き抜けていく風のように、午後のけだるい日差しの中で
木漏れ日の揺らめきに妖精たちがひそひそ話をしているような、心地よい幻覚感もある
聴き手の顕在意識からすり抜けてしまう虚ろな距離感があり、無意識を映し出すようにして何気に
体感的でもある
リチャード・ライトのハモンド・オルガンには、自然へと回帰していくかのようなピュアな輝きがあって
初期のピンク・フロイドの内省的サウンド志向をもっとも代弁していたと思う放たれた音たちは聴き手の
思考回路をすり抜け、誰のものでもなく浮遊する陶酔感が曲を超えたところにあるのがこの時期の
そんな捉え方のアンテナを張り巡らせれば" モア "は、高い完成度のアルバムである
ピンク・フロイドは、この" モア "のレコーディングに8日間ほどしか費やしていない
これはテイクされている曲のいくつかが、すでにライヴなどで発表した作品を流用したのと、この時期は
ライヴ活動を精力的にこなしていたので、それほどアルバムのレコーディングに時間が割けられなかった
アルバム" 原子心母 " " おせっかい "にテイクされている落ち着いた曲が好きな人は" サイラス・マイナー "
" 嘆きの歌 " " グリーン・イズ・カラー " " シンバライン "が気に入ると思う、特に" グリーン・イズ・
カラー "は後の" あなたがここにいてほしい "を予感させる佳曲になっている
アコースティック・ギター、デヴィッド・ギルモアのヴォーカル、そして素朴な笛が奏でる美しい
メロディを耳にすれば、これが初期のピンク・フロイドのライヴの定番曲であったことに納得する
3分弱の演奏だが、この1曲のためにこのアルバムを求めても惜しくない
そのほか" ナイルの歌 " " イザビ・バー "はハード・ロック調だし、比較的演奏時間の長い" モアの主題歌 "
" クイックシルヴァー "は" 神秘 "の続編のようでもある
" シンバライン "の歌詞でロジャー・ウォーターズが、バンドの活動を続けていくうちにさまざまな
プレッシャーを感じ始めていることを匂わせている
ピンク・フロイドはその後、再びバルベ・シュローダー監督の映画作品のサウンド・トラックを担当する
また、スタンリー・キューブリック監督の『 2001年宇宙の旅 』のサウンド・トラックの依頼があった
のは有名な話であるが、担当することはなかった
交渉の中で両者の折り合いがつかなかったからだそうだ
" モア "のサウンド・トラックの話がきたのは、スタンリーキューブリックとの仕事の話がなくなった
直後といわれている