エモーショナルで個性的なギター・スタイル
1978年リリースの" David Gilmour "のソロ・アルバム
" デヴィッド・ギルモア "といういたって単純明快なタイトルが付けられたこのアルバムは、1978年に
リリースされたもので、ピンク・フロイドの活動の歴史によれば" アニマルズ "と" ザ・ウォール "の合間
に誕生していることがわかる
バンドのサウンドの性質上、またはバンドそのものの立場上、発表するものすべてが問題作として
取り上げられ論議の対象とならざるを得ない彼らの、いわゆる三部作" 狂気 " " 炎 " " アニマルズ "の
終結後ということになるわけだ
ソロ・アルバムを発表したくなる気持ちが痛いほどよくわかる
リラックスした気持ちで音楽に、創作に臨みたかったのだろう
これは言い過ぎかもしれないが、ひょっとすると自分のものよりも強力に頑固な意志が少なからず入った
ものを取り上げられ、それについてとやかく言われる必要のない状態を望んだのかもしれない
何はともあれ、この" 名刺 "を携えてギルモア本人が現れたのだから、これを当時のギルモアだと思う
ことが順当であろう
§ Recorded Music §
1 Mihalis - ミハリス
2 There's No Way Out of Here - ゼアーズ・ノ・ウェイ・アウト・オブ・ヒア
3 Cry form the Street - クライ・フロム・ザ・ストリート
4 So Far Away - ソー・ファー・アウェイ
5 Short and Sweet - ショート・アンド・スウィート
6 Raise My Rent - レイズ・マイ・レント
7 No Way - ノー・ウェイ
8 Deafinitely - デフィニトリー
9 I Can't Breath Anymore - アイ・キャント・ブリーズ・エニモア
§ Band Member §
David Gilmour - デヴィッド・ギルモア( G,Key,Vo )
Rick Wills - リック・ウィルス( B,Vo )
Willie Wilson - ウィリー・ウィルソン( Ds )
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" ミハリス "というインストゥルメンタルからこのアルバムは幕を開ける
単純なコードの繰り返しの中、ギルモアが思いついたように勝手気ままに弾いていると視界が開けた
ように展開する
次に出てくる歌詞を盛り上げるわけでもなく、次に来るべきドラマティックな展開への序章の役割を
果たすのでもないインストゥルメンタル…しかし、そのエッセンスは確実にフロイド的で、いかにも
ギルモアらしい
" ゼアーズ・ノー・ウェイ・アウト・オブ・ヒア "は、他人の楽曲ながら実にこのアルバムとマッチ
している
どこかロンドンの冬の日差しを想わせるギルモアの歌声で、" 出口なんてありはしない、答えなんて
ありはしない、耳を傾けること目で見ること以外には… "と歌われてしまうと、どうしようもないやるせ
なさと寂寞感に襲われるが、同時に潔いものの持つ力強さを感じてしまうから不思議なものだ
続く" クライ・フロム・ザ・ストリート "は、まさしく忍びの一字の曲である
わずかな展開と、最後のどんでん返しを楽しむことができる
" ソー・ファー・アウェイ "の次々に変わってゆく流れには、何の抵抗もすることなく身を委ね、彼女の
横で眠れないと嘆いている男の孤独は、とても底が深いようである
湧き上がってくるような女性コーラスが元気づけてくれるようで頼もしく温かい
明るくゆったりとした曲調にのせて諭されるように歌われる" ショート・アンド・スウィート "、より
具体的・直接的な表現を使用するようになった" アニマルズ "よりも、この程度の詩的さ、柔らかさ
加減を彼は好むのだろうか
歌詞は詩ではなく曲のイメージとともにあれば、その意味を匂わせるだけで充分に通用するのは確かな
ことである
" レイズ・マイ・レント " " デフィニトリー "のようなインストゥルメンタルなどは、言い知れない感覚に
とらわれるだけで充分である…しかしギルモアのギターは外さない
適度の緊張感と絶対的存在は、常に漂っている
" ノー・ウェイ "でのスライド・ギターの切り込み方と、その後の音の在り方なんて絶妙であり、" アイ
キャント・ブリーズ・エニモア "は一気に歌い上げると、そのまま消えてしまう、強い意志表示を
するとすぐに…
ピンク・フロイドほど表現に対して純粋で、その結果社会に貢献しているロック・バンドは、ほかに
あまり例をみない
深層心理や社会現象を取り上げることは、時として厄介な結果をもたらす場合があるが、いうまでも
なく彼らは非常によくやっている
自分たちのみならず、ほかの優秀な才能の発掘までやってのけるのだから頭が下がる
知れば知るほど彼らの魅力は深まるばかりである