プログレ・ハードの始祖とも呼ぶべき1枚
1972年のサード・アルバムで最高傑作とされている" ARGUS "
非常にフォーキーでリリカルなサウンドとメロディが素晴らしい
中世の騎士物語をモチーフにしたコンセプト・アルバムなのは、よく知られているが決して難解な内容
ではなく、曲やアルバム全体の構成が流れるように自然で、荘厳さを持ちつつもアルバムを通して
聴いても疲れない聴きやすさをも兼ね備えている
さらに音楽とジャケットのアート・ワークも見事に調和していて、つくづくトータルなバランスのとれた
奇跡的なアルバムである
アルバム全体に漂う透明で潤った空気感、霞み広がるイングランドの草原を思わせる風景を2本のリード
ギターと美メロ・ベースが美しく絡み合い、叙情的に風景画のようなメロディを紡ぎ出している
発表当初から名盤の声は高かったが、時が経つにつれその評価が揺るぎないものとなる
§ Recorded Music §
1 Time Was - 時は昔
2 Sometime World - いつか世界は
3 Blowin' Free - ブローイン・フリー
4 The King Will Come - キング・ウィル・カム
5 Leaf and Stream - 木の葉と小川
6 Warrior - 戦士
7 Throw Down Sword - 剣を棄てろ
§ Band Member §
Andy Powell - アンディ・パウエル( G,Vo )
Ted Turner - テッド・ターナー( G,Vo )
Martin Turner - マーティン・ターナー( B,Vo )
Steve Upton - スティーヴ・アプトン( Ds )
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彼らのインストゥルメンタルは不必要な装飾を施さないクリアな音色で構成されている
そして、余計な音を出さないバンド・アンサンブル、この音作りには時代に関係なくいつまでも新鮮で
あり続ける
そこに、これまた古くなりようがない人の声によるコーラス・アレンジが駆使される
このアレンジ・センスが特筆すべきもので、楽曲の素晴らしさを最大限に引き出し、ときには躍動感を
増幅させ、ときには悲壮感を醸し出している
とくにこの" アーガス "においては、ツイン・ギターはもちろんだがコーラス・アレンジが非常に重要な
役割を果たしている
彼らのハーモニーはどこまでも透明で美しく、そして哀しい…深い森の中に立ち込める霧のように
アルバム全体が流れている
今となってはシンプルすぎるほど薄い音ながら、ストラト&フライングVの音色ごとに切なく唱うツイン・
ギターの美旋律と、耳に染めいるキメフレーズ、曲ごとに煌めくドラマティックな展開、独特の間合い
のフィルが小気味よいドラムス、すべてが溶け合いアルバムを通して聴いてもアッという間に時間が
すぎる
静から動への展開が素晴らしい" 時は昔 "、ウィッシュボーン・アッシュらしい哀愁のあるギターから
始まる" いつか世界は "、ラスト2曲を迎えるための序章ともいえる秋の色漂う" 木の葉と小川 "、ヒプノ
シスのジャケットを想像させる" 戦士 "、そしてロック界一番といえる唯一無比のツイン・リード・
ギター・ナンバー" 剣を棄てろ "
結成時のオリジナル・メンバー、そして当時の音楽シーン、彼らの若いエネルギーが偶然にほんの一瞬
一点に集中した結果、奇跡的に産み落とされた二度と具現化できない伝説だと思う
しっかり曲を作り曲の繋がりがよく、ソロにもリフにもすべてに必然性があると感じる
" ロックなんて簡単さ "といっているのは単なるロックン・ロール・バンドの戯言であり、演奏的に
みても、ドラムのスティーヴ・アプトンは大変な曲者で、そのまま死んでしまうんじゃないかと思う
ほどのモッタリ・リズムかと思えば、どこで手数を入れてくるかまったく予測がつかず、こんなに
合わせにくいドラマーをおそらくいないだろう
しかし、これに完璧に合わせてくるベースやギターは並大抵ではない…グルーヴなんて生易しいものじゃ
なくまさに職人技といえる
細部までのギターのトーンのこだわり、音のないところまで音のあるような、ある種の" 間 "、これが
ウィッシュボーン・アッシュが日本人に受け入れられたひとつの理由かもしれない、そしてオリジナル・
メンバーであったスティーヴ・アプトンがかつて" アーガスⅡを作ればバンドの成長が止まってしまう "
といっていたが、" アーガスⅡ "…もしもリリースされれば聴いてみたかった