ジャーマン・エレクトロの原点に位置するTangerine Dream
ヴァージン移籍第一弾のアルバム" Phaedra "
クリストファー・フランケ、エドガー・フローゼ、ピーター・バウマンが1974年にリリースしたこの
傑作は、エレクトロニック・サウンドとシンセサイザーが生み出す漆黒の音風景によって、満ち引きを
繰り返している
このアルバムは多くのアンビエント・ミュージック、それにいくつかのダンス・ミュージックの先駆けと
なり、スティーヴ・ローチといったアーティストに影響を与えた
美しく濃厚なシンセによるタンジェリン・ドリームならではの音の波が、アンビエント・ミュージック
の宝石に偶然出くわして、オーケストラ風の夢のような情景を引き出し、開放的なサウンドによる分厚い
流れに向かってにじみ出す
§ Recorded Music §
1 Phaedra - フェードラ
2 Mysterious Semlance at the Strand of Nightmares - ミステリアス・センバランス
3 Movements of a Visionary - ムーヴメント・オブ・ア・ヴィジョナリー
4 Sequent C' - シークエント C
§ Band Member §
Edger Froese - エドガー・フローゼ( Key,Vo )
Christopher Franke - クリストファー・クランケ( Key,Ds )
Peter Baumann - ペーター・バウマン( Key )
縦横無尽に迫り来る70年代前半のアナログ・シンセ、その音の選択、音質、録音、ハプニング、そして
曲構成とすべてに非のうちどころがない
最初はテリー・ライリーに影響を受けたのかくらいに思っていたが、完全に違っていた
音楽にはドラマが必要だと考える人、この時代のアナログ・シンセが好きな人、『 2001年宇宙の旅 』
の木星突入シーンが何よりも好きな人にはマスト中のマストである
" アナログ・シンセはこうやって使うんだ "というくらいの、まるでお手本みたいな完璧な作品で、全4曲
40分弱の構成、4曲ではなく4楽章と言ったほうがしっくりくるかもしれない
このアルバムは自由な形態で演奏した現代クラシックのように感じることができ、時に有機的、時に
無機的で自在に変化するシンセ・サウンドは、黄泉の世界か桃源郷か、音のうねりや揺らぎを駆使して
幻想的な世界を作り出している
ムーグ・シンセの導入により表現的にもサウンドに奥行きが増し、リハーサル・テープの編集で作られた
という本作の楽曲は音楽としての起承転結の流れのようなものが感じられる
シーケンサー的なリズムを聴かせるシンセ音はクラウス・シュルツェにも近い質感で、それまでの
イメージを音に投影するような作風から、よりディジタリティなシンセ・サウンドへと変化がみられるが
それでいて奥深い幻想空間をちゃんと残しているのが素晴らしい
エドガー・フローゼ曰く" そして僕らはついにシンセ・リズムというものを発見したんだ "、クリス・
フランケによるアナログ・シーケンサーのリズム生成とミニマリズムというタンジェリン・ドリームの
世界が世に生まれた問題作である
とにかく、これを聴きながら目を閉じるとトリップしてしまうのを避けられない…行き先は天国か黄泉の
国か、途中に入るエドガーのベースにメロトロンも聴きものである
初期から80年代までのシンセサイザーの音色を生かした想像力を掻き立てる作品群の中でも" ルビコン "
などとともに最高傑作と呼ばれている
アルバムのタイトルの" フェードラ "とはギリシャ神話に登場する女性の名前である
このバンドはかなり難解に考えられていて、テーマやスタイル、思想などが語られることが多いが、
個人的にはあまり理論では考えず想像力に身を任せて、不思議なシンセ音で構成された世界を楽しめば
いいのではないかと思う
楽器が異なったクラシックでも、プログレでもアンビエイトでも枠組みできない音を楽しむ純粋な
" シンセサイザー音楽 "というのがまさにコレだと思う
今や古典となったタイトル曲" フェードラ "は、心なごませる同時に、かすかな連続音と歪んだ金属音で
亡霊のように心をゾクゾクさせては、悪夢のようなさえずりと叫びを放つ泥沼に飛び込んでいる
" ミステリアス・センバランス… "は、まるでエレクトロニクスでできた愛らしい鷲のように、舞い
上がっては舞い降り、幻覚状態の輝きと無限の威厳をこのアルバムにもたらしている