8歳の少年が書いた抒情詩に曲をつけて完成させたアルバム
1972年作、Jethro Tullの代表作" Thick as a Brick "
前作" アクアラング "が批評家からコンセプト・アルバムとみなされたことから、バンドは本気で
コンセプト・アルバムを制作することにした
本作のコンセプトは、モンティ・パイソンからの影響を受けており、8歳の少年ジェラルド・ボス
トックが書いた詩に基づいているという設定だが、ボストックは架空のキャラクターで、実際には
イアン・アンダーソンが作詞した
マーティン・バレによればソング・ライティングのクレジットには反映されていないが、実際には
バレも作曲に関与し、さらに本作ではジョン・エヴァンの貢献も大きかったという
バンドの初代ドラマー、クライヴ・バンカーは結婚を理由にバンドを脱退し、後任としてバリモア・
バーロウが加入している
§ Recorded Music §
1 Thick as a Brick PartⅠ - ジェラルドのけがれなき世界 パート1
2 Thick as a Brick PartⅡ - ジェラルドのけがれなき世界 パート2
§ Band Member §
Ian Anderson - イアン・アンダーソン( Vo,Flt,G )
Martin Barre - マーティン・バレ( G )
John Evan - ジョン・エヴァン( Key )
Jeffrey Hammond - ジェフリー・ハモンド( B )
Barriemore Barlow - バリモア・バーロウ( Ds )
ほんのちょっとだけ聴くつもりが、クルクル回り踊る色とりどりの音に魅了され翻弄されて気がついたら
40分経ってしまっている…そんな作品である
回り続ける狂ったメリーゴーランド、せわしなく次々と繰り出される展開、しかし複雑だとか難解だとか
そういう肌触りが全くせず、" すべて即興、気の向くままに演ってんだよ "とでもいっているような雰囲気
が全編にあり、肩に力が入った感じがまったくない
それでいて、無駄な部分が一つも見当たらない緻密な構成、これだけ長大な作品なのに間延びして
退屈になるような部分もまったくない、止まらない、ひたすら動き続けている…おもちゃ箱をひっくり
返したような色とりどりの音の世界
楽しげに踊るようなフォーク調のパートに導かれ、不思議な世界に入り込んでいくのだが、ギターが
ノイジーに唸って熱いハード・ロックが走り出し、ドライブ感のあるベース、オルガンが駆け巡り、
ピアノが滑らかに流れたり跳ねたり、フルートが時に優美に轟き時に狂ったように踊り、センチメン
タルな歌声にうっとりしたり、陽気にステップを踏んだり、威厳に満ちて行進するようなパートに戦慄
したり、クラシカルで壮大シンフォニックな効用にとらわれ感動していたりと、とにかく目まぐるしい
なのに聴いていてとても気持ち良いから不思議である
文学性の高い歌詞、コンセプトに演劇性が加わり、べらぼうに高いメンバーの演奏力によって披露される
一糸乱れぬアンサンブルは大作という長さを感じさせず、最高傑作にふさわしい作品で、新聞型の
アルバム・ジャケットも有名である
未だに勘違いしている人も多いようだが、ジェラルド・ボストックが書いたといわれている詩は、すべて
イアン・アンダーソンの" でっちあげ "で、ジャケットの新聞の中を見ると" ジェスロ・タル新作を発表 "
といった感じの内容が書かれている( 当時イギリスのメディアもすぐには気づかなかったとか…
素晴らしい詩だとボストックを賞賛したらしい )
しかし、彼らがここまで徹底してこのアルバムを作り上げたのは理由があり、前作を意図せずコンセプト
アルバム扱いされたことが気に入らなかったようだ( 当時プログレ隆盛時代 )
そのため一世一代のでっちあげで当時のロック・シーンを皮肉ってみたのではないか
のどかで幻想的な雰囲気のブリティッシュ・フォークをベースとしつつ、ありえないくらい展開していく
穏やかな曲調からスリリングになったり、力強く威風堂々とした雰囲気になったり、また穏やかに戻った
り…のどかなフォーク・ギターはスリリングなロック・ギターへと変貌し、呼応するように穏やかな
フルートが一気に吹き荒れる
44分の大曲1曲のこの作品、名盤といわれても初めて聴く人には取っ付きにくいイメージがあると思うが
豊富なアイディアと流麗な演奏、アンサンブルで意外と一気に聴けてしまう
ジェスロ・タル・ファン、プログレ・ファンは必聴、ジェスロ・タル初心者に人にもお勧めである
大作のためプログレ的に語られることが多いが、それよりもエレクトリック・ドラッド的な作品として
聴くともっと楽しめると思う