静と動の対比による不調和にエネルギーによって神秘的な
美しさを内包するAnekdotenの2ndアルバム" Nucleus "
1970年代のキング・クリムゾンを彷彿とさせ、原点回帰の現代版といえるプログレを実践する北欧
( スウェーデン )のグループで1990年、ニクラス・バーカー、ヤン・エリク・リジェストローム、
ピーター・ノルディンがロック・バンド、キング・エドワードを結成、プログレッシブ・ロック・
バンド、キング・クリムゾンのカバーを主体にしていた
母国の音楽イベントに出演した際、そこで見かけたアンナ・ソフィ・ダルバーグのプレイに感銘を受けた
メンバーは彼女をスカウトし、その後バンド名をアネクドテンと改名し心機一転し再スタートを切る
1993年自主レーベルからの1stアルバム" 暗鬱 "でデビュー、メロトロンを駆使していたころのキング・
クリムゾンを意識したサウンドが話題となり欧州で配給が実現、1995年、本作" ニュークリアス "を
発表、これがキング・クリムゾンの代表作" 太陽の戦慄 "や" レッド "のヘヴィ・ナンバーを彷彿とさせ
特に日本などでさらなる高い評価を得た
§ Recorded Music §
1 Nucleus - ニュークリアス
2 Harvest - ハーヴェスト
3 Book of Hours - ブック・オブ・アワーズ
a) Pendulum Swing / b) The Book
4 Raft / Rubankh - ラフト/ルバンク
5 Here - ヒア
6 This Far from the Sky - ディス・ファー・フロム・ザ・スカイ
7 In Freedom - イン・フリーダム
§ Band Member §
Nicklas Barker - ニクラス・バーカー( G,Vo )
Jan Erik Liljestrom - ヤン・エリク・リジェストローム( B,Vo )
Anna Sofi Dahlberg - アンナ・ソフィ・ダールバーグ( Cello,Vo )
Peter Nordins - ピーター・ノルディン( Ds )
ファースト・アルバム" 暗鬱 "はリフの繰り返しの多さも含めていくぶん荒削りな作風であったのだが
このセカンドになると楽曲のアレンジが緻密になり、展開にドラマティックな起伏がついてきた
ほとんどスタジオ一発録りだったというファーストに比べて、計算されたダイナミズムによりメタル・
ファンにも聴けるヘヴィ・パートがあると思うと一転、北欧的な静寂パートへの切り返しが見事である
そして、ここぞとばかりに盛り上がるメロトロン・パートでは" 北欧のクリムゾン "と呼ばれる面目躍如
たる寒々しい叙情が襲いかかってくる
" ニュークリアス "は不気味なSEから始まるが、すぐに変拍子によるヘヴィなギター・リフが登場、
まさに暗黒時代のクリムゾンをそのまま進化させたかのような演奏となっており、それだけにヴォーカル
の弱さが若干気になるが、それを差し置いても素晴らしいサウンドである
鬼気迫るギターと暗闇にどんどん落ちていくかのようなリズム隊によるコンビネーションは、さながら
計算されたノイズのようである
" ハーヴェスト "はワウのかかったエレクトリック・ピアノが、やはりクリムゾンの" ムーンチャイルド "
的な雰囲気を醸し出し、陰鬱なヴォーカルに黒いチェロが絡み一瞬の静けさが作られるが、それはすぐに
爆音のギターにかき消されてしまい、静と動のコントラストが70年代のプログレのそれを思わせる
曲である
" ブック・オブ・アワーズ "はどことなく" アイランド "期を思わせる静かなドラムから始まり、徐々に
ドラムスが盛り上がり、ノイジーなメロトロンが加わっていくあたりもクリムゾン的な手法といえるが
いきなり幾何学的なギターにチェンジするあたりが、彼らの流れといったところだろう
前作も非常に完成度の高い仕上がりだったが、一部でサウンド面の線の細さが気になっていた
本作ではそうした部分がなくなり、よりダイナミックで迫力のあるサウンドが生かされていて、静と動の
コントラストも鮮明でよりメリハリの効いた演奏になっているのも進化といえるが、ノイズギリギリの
破壊的な演奏はそれらを無視しても十二分に聴き応えがある
ギター・メロトロン、リズム隊がひとつの渦になったかのようなダークなサウンドは技巧派のプログレ・
メタル系では出し得ないものである
彼らの作品はいわゆるB級なものではないが、そうした点から言及すると演奏に比較してヴォーカルが
やや弱く、そして演奏面や楽曲においてクリムゾンに肉薄する点が多くみられるだけにクリムゾンに
持ち得た親しみやすい歌メロがないことが弱点であり個性であろうと思う
ギターにはグランジからの影響も露骨に出ているが、あくまでもそれはサウンドのみに限ったものであり
楽曲面ではそれらにみられる単調さはない
こうした点は聴く人の評価を分けるかもしれないが、トータルとしての作品の完成度からすればそれらは
小さなことである
本作は彼らの作品の中でも決して抜きん出たものではないが、代表作のひとつとして数えられることには
何ら問題ないと思う