イギリスに起こりつつある新たなフォーク・ブームの中で
にわかに注目を浴び始めたバンド
トゥリーズは女性ヴォーカルのセリア・ハンフリーズを中心とした英国の5人組のグループで、本作は
彼らのセカンド・アルバムになる
フォーク・クラブに出入りし歌い始めるようになったセリアは仲間たちとフェアポート・コンベン
ションをまねてバンドを結成、彼らの作品は英国の田園風景を思わせながらも奥行のある幻想的な面も
兼ね備えていて、中にはプログレッシブ的展開をみせる曲もある
しかしながらベースにあるのはトラッド・フォークで、本作はトラディショナル・ナンバーとオリジナル
曲をバランスよく取り入れ、若々しさや瑞々しさはそのままながら一段と飛躍した演奏を聴かせる
出来となっている
少女が庭で水を撒いている極めて印象的なジャケットはヒプノシスのストーム・ソーガソンによるもので
本作の価値を一層高めている
§ Recorded Music §
1 Soldiers Three - 3人の兵士
2 Murdoch - マードック
3 Streets of Derry - デリー通り
4 Sally Free and Easy - サリー・フリー・アンド・イージー
5 Fool - フール
6 Adam's Toon - アダムの木
7 Geordie - ジョーディ
8 While the Iron is Hot - 鉄は熱いうちに
9 Little Sadie - リトル・サディ
10 Polly on the Shore - ポーリー・オン・ザ・ショア
§ Band Member §
Bais Boshell - バイアス・ボシェル( Vo,B,G )
Barry Clarke - バリー・クラーク( G )
David Costa - デヴィッド・コスタ( G )
Unwin Brown - アンウィン・ブラウン( Ds )
Celia Humphris - セリア・ハンフリーズ( Vo )
ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンなどでお馴染みのヒプノシスが本作のジャケット・デザインを
手がけていて、少女( 若干気味の悪い顔の写り )が水を振り撒いた一瞬を捉えた表ジャケはとても
印象的で、いわゆる" ジャケ買い "の気持ちにさせる魔力を持っている( 実際にそのせいで本作を購入
した人も多かったようで… )
裏ジャケも印象的で、上述の" 水撒き少女 "が映画のエクソシストの悪魔に取り憑かれた女の子みたいに
首と体を捻り、背後の建物かその周辺を見ている( 何故か足は極端な内股で、謎を呼ぶシーン )
本作に関してはジャケットの話題ばかりが先行しがちだが、内容の方は悪くはなくイギリスの伝統的な
音楽とロックを自然な形で融合したサウンドが楽しめる
バンドのアンサンブルが結構しっかりとしていて、プログレ・ファンに人気があるのも納得の巧さだ
女性ヴォーカルのセリアの声は、英国的な物憂げさに満ち味わいがあり、イギリスのトラディショナル
ロック( 70年代ブリティッシュ・ロック、プログレ )ファンの双方にアピールできる曲が揃っている
本作の目玉は10分もある大作" フール "で、プログレ・ファンには特に必聴である
" オン・ザ・ショア "は、1970年代っていう時代を反映したアルバムのジャケットのデザインが物語る
ように、そのサウンドもアコースティックなブリティッシュ・トラディショナル・フォークだけに
終わらずに、1970年代っていう時代を反映している
アルバムに収められた10曲中、トラッドが5曲でオリジナルが3曲、時折顔を出すインド風やサイケ調の
アレンジ、そしてリード・ギターのファズ・トーンの歪音とバックのアコースティック・ギターによる
組み合わせが何とも1970年代っていう時代背景をプンプン匂わせ、その薄暗く屈折した危険で怪しい
イメージを醸し出している
ヒプノシスのジャケット・デザインは見る者に、ある種のトラウマを植えつける
このジャケットもまたしかり、天真爛漫な少女をモチーフに据えながら、何か危険で病的なものを想起
せざるを得ない
内容はトラッド風が基調なのだが、演奏は実はカラフルなサイケなロックっぽく、全般でシンプルで
陰りのあるちょっとくすんだ退廃的な感じが非常にいい感じである
特にギターを弾いているのは石間ヒデキ( フラワー・トラベリン・バンド )かと思うくらいサイケで
瑞々しい不思議なテイストを醸し出している
このギタリスト、バリー・クラークは後のトム・ヴァーライン( テレヴィジョン )、ロバート・クイン
( リチャード・ヘル&ヴォイヴォド )らにも影響を与えたらしい
ヴォーカルのセリア・ハンフリーズだけでなく、ギターも聴きものである