叙情派メロディック・シンフォニック・ロックの傑作
マリオ・ミーロ率いるオーストラリアのプログレッシブ・ロック・バンド、セバスチャン・ハーディの
2作目" 風の唄 "で、叙情プログレの世界で語られることも多いセバスチャン・ハーディだが、彼らの
音楽はウェットな英国叙情とは異なり、とてもおおらかで優しさと温もりを与えてくれる包み込むような
叙情感を有するものであり、プログレからイメージされるような難解な印象はほとんど感じられず
うっとりするほど耳に心地よいサウンドであると思う
前作" 哀愁の南十字星 "から僅か半年足らずで発表された" 風の唄 "は、前作と同じくA面に20分に及ぶ
タイトル組曲を配した構成であり、マリオ・ミーロのギター・メロディを主軸に展開されるサウンドも
前作同様で、この両者で1枚のアルバムという印象がある
§ Recorded Music §
1 Windchase - 風の唄
2 At the End - アット・ジ・エンド
3 Life,Love & Music - ライフ・ラヴ&ミュージック
4 Hello Phimistar - ハロー・フィミスター
5 Peaceful - ピースフル
§ Band Member §
Mario Millo - マリオ・ミーロ( G,Vo )
Toivo Pilt - トイヴォ・ピルト( Key )
Peter Plavsic - ピーター・プラヴシック( B )
Alex Plavsic - アレックス・プラヴシック( Ds )
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タイトル曲" 風の唄 "のオープニングでいきなり登場する甘美なメロディ、もっとも印象的なフレーズに
顔が緩んでしまう…初めて聴いたはずなのにどこか懐かしい香りがする旋律、マリオ・ミーロが紡ぐ
ギター・メロディに聴き入ると、まるで遠い記憶が呼び起こされるような感覚を憶える
ほぼ全編にわたって流れているメロトロンを背景に奏でられる優しくロマンティックなギターの旋律は
まるで暖かい風が語りかけているようであり、流れるような甘美なメロディの数々にうっとりする
ばかりである
一般の" 歌 "ではなく民謡に意味を持つ" 唄 "であることがより一層の風情を感じさせ、オーストラリアの
広大な気候風土をイメージさせるようで、南国の哀愁を大いに感じさせてくれる
大きな流れとしてはセバスチャン・ハーディが自ら切り開いた美しくドラマティックなシンフォニック・
ロックで、テクニックには頼らず、アンサンブルもテクニカルなキメを主体としたジャズ的なものとは
異なるまさにシンフォニック…雄大で甘美で、時間が流れていくことを忘れてしまう音楽である
しかし、ニュー・エイジやフュージョンにいかず、あくまでロックしているところが素晴らしく、
音楽の主軸となっているのはマリオ・ミーロの甘く美しく表情豊かなギターである
そして、1st以上にバックに回って全体の雄大なスケールを作り上げるトイヴォ・ピルトのキーボード、
本作は大作" 風の唄 "で、メロトロン・コーラスを取り入れてマリオ・ミーロのギター・ソロを整える
アコースティック・ギターからエレキ・ギター・ソロへと盛り上がる部分は、この曲の大きな山場である
さらにベースとドラムスのプラヴシック兄弟の技術的向上がすごく、ベースは歌い、ちょっと単調な
感じがしていたドラムスは、さまざまな表情を叩き出している
トイヴォ・ピルトのキーボードが控え目になっても、全体の音楽の豊かさや厚みが保たれているのは
このベースとドラムスの貢献度がアップしたからにほかならない
全体のアンサンブルが格段によくなっている
メロトロンのドラマティックな使い方、振り絞るような泣きのギターなど、瑞々しさや衝撃度では
1stはまさに名作であったが、全体のバランスや楽曲の美しさ、心地よさでは" 風の唄 "が上回って
いるように思うし、小曲もメンバーの力量やアンサンブルの充実さがわかる佳曲ばかりである
シングル・ヒットのための曲も含まれているが、全体的に少ない音で表情豊かな世界を描き出すことに
かけては一流であることを証明してみせてくれる
" アット・ジ・エンド "のキーボード・ソロ、そして特にラストの" ピースフル "のギターは美の極致だ