新時代のテナー・サックス奏者John Coltraneの
革新性が誰の目にも明らかとなった
ジョン・コルトレーンがマイルス・デイビスやセロニアス・モンクと共演したあと、アトランティックに
移籍して、あの有名なレギュラー・グループを持つ前の時点、1959年の名盤で静謐な名曲" ネイマ "も
あるが、多音でとにかく奔流のごとく吹きまくるコルトレーン自身の演奏スタイルは、本作で確固たる
ものになったといえる
全曲自作のコルトレーンのアルバムはこれが最初であり、まさに大いなる足跡をしるした傑作だ
リズム隊の演奏はかすみがちだが、コルトレーンのテナーの音に関しては、遅咲きの天才がついに
完成させた" シーツ・オブ・サウンド "に対する自信と確信に満ちている
§ Recorded Music §
1 Giant Steps - ジャイアント・ステップス
2 Cousin Mary - カズン・マリー
3 Countdown - カウントダウン
4 Spiral - スパイラル
5 Syeeda's Song Flute - シーダズ・ソング・フルート
6 Naima - ネイマ
7 Mr. P.C. - ミスターP.C.
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モダン・テナー・サックスの第1人者は1950年代を通じてソニー・ロリンズであったというとやや
語弊があるが、50年代ほかにはデグスター・ゴードンやスタン・ゲッツ、ワーデル・グレイなどの名手が
そろっていたわけだが、総合的にみてロリンズの優位は揺るぎないほどの豊かな才能を示し、優れた
作品を残した
そのロリンズの牙城をついに脅かしたのがコルトレーンの" ジャイアント・ステップス "だ
ロリンズ節といわれた歌心や変化に富んだアドリブのバリエーションでほかを寄せ付けなかったロリンズ
に対し、節やアドリブのバリアントでなくモードのシステムと激しくも吹きまくるシーツ・オブ・
サウンズの洪水の総量で立ち向かったコルレーンは、それ以後サックス奏者への影響力において
ロリンズを凌ぐようになっていった
タイトル曲" ジャイアント・ステップス "は言うに及ばず、" カズン・マリー " " カウントダウン "
" スパイラル "と続く切れ目のない音の畳鰯のような音符に圧倒される
中には" ネイマ "のようなバラードもあるが、自身に満ちたコルトレーンのソロは文字通り偉大なる
ステップを踏み出し、1960年代ジャズへの嵐へと突き進んでいったコルトレーンの最高傑作といっても
いい完成度の高いアルバムである
コルトレーンの演奏も、タイトル曲を含めあらゆるキーで自在にスケールを操り、膨大な練習を窺わせる
手癖フレーズもなく、感性のまま吹き倒すのでもなく、アヴェイラブルスケールのパッチワークでもない
思索し、単音レベルで音を制御しようという意志が感じ取れる
本作で形式的には洗練の極みに達した反面、空疎な音が空回りし始める危険も内包する
コルトレーンがどうして" 至上の愛 "に至るか本作を聴けばわかる気がするし、コルトレーンについての
ウンチクに興味がない人も、理屈抜きで単純にスリリングなジャズ・アルバムとして楽しめる
" ジャイアント・ステップス "で聴くことができるコルトレーンのアドリブはあまりに激しく美しい
目まぐるしく変わるコードに乗るシーツのごとく滑らかなサウンド、この演奏が何となく凄いのは
わかるし、このありえないコード進行は" コルトレーン・チェンジ "とか呼ばれるようになる
アトランティック・レーベルにおけるジョン・コルトレーンの第一歩で、その名も" ジャイアント・
ステップス "、全曲彼のオリジナルで新天地における意気込みを感じさせる
50年代ジャズ界テナー・サックスはソニー・ロリンズの存在感が圧倒的だったが" 60年代は俺が主役だ "
という宣言ともいえる
興味深いのは" カウントダウン "で、コルトレーンの演奏で時間が2分半というのは信じられない短さだが
これがどういう意図によるものか謎ではある
実に緻密で、計画的に裏打ちされたインプロヴィゼーションは音のシャワーのように聴く者を圧倒する