ファースト・アルバムと同路線のアコースティックな
作風で、ヴォーカルに比重を置いている
英国プログレ・バンドの老舗ジェネシスの初代ギタリストであったアンソニー・フィリップスのソロ
第2作で、前作がアコースティックな中性的サウンドがメインであったのに対し、本作はジェネシスとも
このサウンドの変化はおそらくプロデューサーであるルパート・ヘインによるものだろう
ヴォーカルが弱いのが難点といえば難点だが、美しいメロディを持つ曲が多いのでそれもあんまり
気にならない
特にクラシカルな味わいのある" リグレッツ "はこれ1曲だけでも持っていてよかったと思わせる名曲だ
§ Recorded Music §
1 We're All As We Lie - ウィ・アー・オール・アズ・ウィ・ライ
2 Birdsong - バードソング
3 Moonshooter - ムーンシューター
4 Wise After the Event - ワイズ・アフター・ジ・イヴェント
5 Pulling Faces - プリング・フェイセス
6 Regrets - リグレッツ
7 Greenhouse - グリーンハウス
8 Paperchase - ペーパーチェイス
9 Now What ( Are They Doing to My Little Friends? ) - ナウ・ホワット( アー・ゼイ・ドゥーイング・トゥ・マイ・フレンズ?)
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前作は歌入りの曲が3曲しかなかったが、本作は全曲のヴォーカルをアンソニー・フィリップスが担当
繊細で泣いているかのような細い声が曲調に合っている
この作品の価値は1度聴いただけでは分からなく、何度も聴く中で1曲1曲が非常に繊細で、丁寧に計算
されていることに気づく
ジェネシス脱退後に本格的に音楽を学習した成果が出ていて、繊細で素朴な楽曲にオーケストラを上手に
かぶせて非常にピュアな世界を作り出している
曲のタイトルや歌詞に鳥やリス、虫などの小動物が出てくるので小動物の生命尊重がテーマかも知れない
バック・ミュージシャンはドラムにマイケル・ジャイルズ、サックスにメル・コリンズで" クリムゾン
キングの宮殿 "に参加した2人の存在が光っている
本作はメジャー移籍第一弾ともいうべく作品だが、かといって曲も演奏も、そして美しいジャケットも
前作とまったく変わっていないのが彼らしい
まったく変化がないかといわれればそうでもなく、メル・コリンズの素晴らしいサックスが聴かれる
" ウィ・アー・オール・アズ・ウィ・ライ "からしてかなりロックなアレンジになっていてダイナミクスと
いう点では前作を超えているし、限りなくジェネシスに近い
ゲストもメル・コリンズ、マイケル・ジャイルズのほか、キャラバンなどで有名なジョン・G・ペリー、
ルパート・ハインなどジェネシス組は参加していない
トータルのイメージを重視した構成美のお手本のような作品であり、これはプログレに求められている
ひとつの理想を具体化したものである
1人ジェネシスといってしまえば実も蓋もないが、この優しいヴォーカルで歌われるジェネシスもまた
最高で、ガラス細工のような繊細で美しい作品である
前作" ギーズ・アンド・ザ・ゴースト "がインストに比重を置いたマイク・ラザフォードとのデュオ・
アルバムという趣きだったのに対して、本作は彼の弱々しいながらも味のあるヴォーカルを中心とした
作り…とはいっても彼ならではのギターの響きも健在である
英国的で楽しいピーター・クロスのジャケットが、音の内容のかなりの部分を伝えているのは初期の
ジェネシス・メンバーのアルバムの特徴だ
全体にモヤがかったような曖昧なヴォーカルと、ほぼ全曲に薄くかけられたエフェクターがこのアルバム
の印象を決定している
ジェネシスのような緻密で計算され尽くしたような高度な楽曲はないが、ほのぼのとした春の霞のような
のんびりとしたアルバムである