ルーツに根ざした本格的なブルース感覚が宿る傑作
自らのレーベル、ダック・レコード立ち上げ第1弾のアルバムで、前作" アナザー・チケット "を踏襲した
音作りになっていて、1曲目でのアルバート・リートの掛け合いや、いかにもクラプトン然とした
バラード" プリティ・ガール "などがテイクされている
この後、クラプトンは髪を伸ばし、フィル・コリンズをプロデュースに迎えて一気にトレンド路線に
なだれ込んでいくので、垢抜けなさが抜けないクラプトン最後のアルバムと聴くことができる
味付けが多少アルバムごとに変わっても、エリック・クラプトンの基本的音楽姿勢は一貫していて
派手さはないが渋めで明るく元気なクラプトンが聴ける好アルバムに変わりはない
80年代のクラプトンも良いと思わせる1枚である
§ Recorded Music §
1 Everybody Oughta Make a Change - メイク・ア・チェンジ
2 The Shape You're In - ザ・シェープ・ユーアー・イン
3 Ain't Going Down - エイント・ゴーイング・ダウン
4 I've Got a Rock 'N' Roll Heart - ロックン・ロール・ハート
5 Man Overboard - マン・オーヴァーボート
6 Pretty Girl - プリティ・ガール
7 Man in Love - マン・イン・ラヴ
8 Crosscut Saw - クロスカット・ソー
9 Slow Down Linda - スロー・ダウン・リンダ
10 Crazy Country Hop - クレイジー・カントリー・ホップ
§ Personnel §
Eric Clapton - エリック・クラプトン( G,Vo )
Ry Cooder - ライ・クーダー( G )
Albert Lee - アルバート・リー( G,Key )
Donald Dunn - ドナルド・ダック・ダン( B )
Roger Hawkins - ロジャー・ホーキンス( Ds )
|
1983年にリリースされたこの作品は、英国人であるクラプトンが一緒に演奏してみたかったアメリカン
ミュージックの大御所たちを集めて作ったアルバムで、本作ではクラプトンはアルバート・リーと
共に、マッスル・ショールズのドラマーのロジャー・ホーキンス、ブッカー・TとMG'sのベーシストの
ドナルド・ダック・ダンのリズム・セクションになんとライ・クーダーを加えて楽しそうに演奏を
繰り広げている…プロデューサーはトム・ダウト
このアルバムは、重要なアルバムとかターニング・ポイントになったアルバムではないし、傑作アルバム
とかという1枚でもないが、クラプトンの長いキャリアの中ではクラプトン自身が楽しむことができたと
思われるこういうアルバムがあったからこそ、80年代を超えてさらに先に進むことができたのだと思う
" メイク・ア・チェンジ "はシンプルなリフをベースに展開していくブルース・ロックでスリーピー・
ジョン・エステスの曲ながら完全にクラプトン節になっている
リフのスタイルはファンクに近いものだが、粘っこくなくサラリとしていて心地がよく、どちらに
しても冒頭を飾るにはもってこいの印象的な仕上がりである
" ザ・シェープ・ユーアー・イン "はカントリー・ブルースをフォーク・ロックっぽく演奏したような曲で
この曲もクラプトンの定番スタイルで安心して聴くことができる
" エイント・ゴーイング・ダウン "は高速のハイ・ハット・ワークが印象的なサザン・ロック風味の曲で
スカスカのバックに軽めのギターと低音をバッサリ削ったサウンドになっていて、" ロックン・ロール・
ハート "は" 461 "のころを思わせるトロピカルな雰囲気の曲で、オルガンのサウンドもそのまま、
ちょっと感じるレゲエ風味も意識したものだろう
" マン・オーヴァーボート "はカントリー・ロックをベースにしつつもサビではキャッチーなメロディを
折り込むなど彼なりのポップ・チューンになっていて、彼でなければ普通にパワー・ポップに仕上がるで
あろう隠れた佳曲である
このアルバムでは、ライ・クーダー、ドナルド・ダック・ダン、ロジャー・ホーキンスといった
ミュージシャンが脇を固めたことにより、クラプトンから今まであまり感じられなかったルーツな
ブルース感覚がこのアルバムでは見事に表現された
そうしたこともあって、いつもならベタベタな甘さになるクラプトンのバラード" プリティ・ガール "の
ような曲においても落ち着いた渋い味わいがあり、聴き飽きさせない
以前、ピーター・バラカンは" ライ・クーダー印があるだけで、それはいい音楽が保証されている
ようなものです "と言っていたことがあるが、その意見には頷くしかない
前作の緩すぎた演奏が若干補修してタイトになっていて、演奏面についてはロック色が強まっているが
全体的にサウンドはやや軽く、決め手に欠けるのは確かだが曲の味わい深さはなかなかなものである