荘厳、青空、白、極寒、そんな南極のイメージに透明感、美しさ
光、生命、希望といった要素が被さったような見事な音作り
蔵原 惟繕( くらはら これよし )監督、映画「 南極物語 」のサウンド・トラックで、分厚い氷に
閉じ込められた南極観測船" 宗谷 "は、海外船の助けを借りて何とか海外へ脱出したものの、吹き荒れる
ブリザードに阻まれ、カラフト犬を連れて帰ることができなかった…しかも犬たちは鎖に繋がれたまま
失意の中、帰国した越冬隊には罵声が浴びせられる…彼らの骨を拾うつもりで再び南極大陸に降り
立った越冬隊は、そこで信じられない光景を目にした
まだ子犬だった2匹のカラフト犬「 タロ 」と「 ジロ 」が生きていた…日本中に感動を呼んだこの
出来事を映画にしたのが「 南極物語 」である
音楽を担当するのは、ギリシア人シンセサイザー奏者ヴァンゲリス、最高の作曲家が大自然の物語に挑む
新作ということで世界的にも注目を集めた
§ Recorded Music §
1 Theme from Antarctica - 「 南極物語 」メイン・テーマ
2 Antarctica Echoes - 極地のこだま
3 Kinematic - 生きるための戦い
4 Song of White - 白夜の歌
5 Life of Antarctica - 生命の神秘
6 Memory of Antarctica - 南極の想い出
7 Other Side of Antarctica - 未知とロマンの南極
8 Deliverance - 奇跡の生存
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映画 「 南極物語 」の最大の功績は南極という大自然と、このシンセサイザーの巨匠を結びつけてくれた
ことで、夏は日差しを浴びた氷塊が煌めき、冬はどこまでも続く氷上を凄まじい吹雪が吹き荒れる
オーロラの荘厳な夜や、海に浮かぶ氷塊のダイナミックな動きなど、さまざまな南極のイメージを
リズムの反復とともに次々と思い起こさせてくれる表現に感服である
そのどこまでも具象的なイメージは、日本人の情緒にもピッタリとマッチするものであり、そして
大自然の偉大さに包まれるような感動に導いてくれる
とりあえず南極についてもっとも雄弁に語っている1枚であることは間違いない
一般的にシンセサイザーで演奏される音楽は、機材の進歩とともに時代遅れになるものだが、当時の機材
を利用して作曲・演奏されたこの作品は、今日においてもまったく色褪せることなく光り輝いている
とりわけ" 「 南極物語 」メイン・テーマ "という題名が付けられた7分ほどの作品は、太古から生命の
根源に息づいて脈動する躍動感と高揚感を優美に勇壮に荘厳に描き出した傑作である
この作品が時代の推移を超えて、今なお観衆の胸を鷲掴みにするのはヴァンゲリスという作曲家の感性が
時代の推移の中で生起する表層的な現象ではなく、時空を超えて生命の本質に息づく悠久に向けられて
いるからで、その音楽はあたかも時空を超えて原初から現代に響いてくる宇宙と生命の鳴動のように思う
オリジナル・アルバムとしての出来の良さという点では、たしかにヴァンゲリスの最高傑作という訳では
ないと思うが、" メイン・テーマ "1曲だけのためにこのアルバムを購入する価値は大である
琴の音を中心において、その周囲をさまざまなパーカッションが彩り、単純なテンポとメロディ・ライン
を感動的な1曲にまとめあげている
ヴァンゲリスの真骨頂のひとつであることは明確で、映画自体の存在はこの際置いといて1枚のアルバム
として楽しんでもらいたい
彼が手掛けたのは、この感動的なストーリーのサウンド・トラックで、どの曲を聴いても、「 南極物語 」
を観たときの感動が蘇ってくる
またその感動をさらに背中から押してくれるのがこれらの曲である
「 タロ 」と「 ジロ 」…今はどちらの犬もいないが、彼らの活躍は忘れられない