人間を動物に例える痛烈な社会批判とシンセサイザーなどを
駆使したアンビエイトな音作りによる作品
巨大な発電所の上空に気球の" 豚 "が飛んでいる…奇妙でユーモラスなジャケットはグループのリーダー
ロジャー・ウォーターズ自身のデザインで、長い付き合いであったデザイン工房ヒプノシスから離れた
ロジャー・ウォーターズは昔デザイン学校に通っていたぐらいだからビジュアルなものに関する興味は
昔から持っていたのであろうし、これは彼のセンスが生かされた勝れたジャケットである
グループとして新しいスタートするのだから、ジャケットも自らの手によって新しい形でやりたいという
意欲が現れているように思える
§ Recorded Music §
1 Pigs on the Wing ( Part Ⅰ ) - 翼を持った豚・パートⅠ
2 Dogs - ドッグ
3 Pigs ( Three Different Ones ) - ピッグ( 3種類のタイプ )
4 Sheep - シープ
5 Pigs on the Wing ( Part Ⅱ ) - 翼を持った豚・パートⅡ
§ Band Member §
Roger Waters - ロジャー・ウォーターズ( Vo,B )
David Golmour - デヴィッド・ギルモア( Vo,G )
Richard Wright - リチャード・ライト( Vo,Key )
Nick Mason - ニック・メイスン( Ds )
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アルバムの内容は前作" 炎 "とはまったく違い、ピンク・フロイドの文明批判、時代批判という一貫した
姿勢が貫かれていて、簡単にいってしまえばピンク・フロイドによる「 アニマル・ファーム 」ロック版
といったところでジョージ・オーエルの手になる小説「 アニマル・ファーム 」は動物社会の革命の姿を
批判的に描いた作品でピンク・フロイドもそのスタイルを借りながら自分たちなりの文明批判をしている
" ドッグ "犬に象徴させているのは小賢しい人間、というかある意味では人間一般のことで、管理されて
いることに慣れ、そうした自分を合理化し続けていると自分そのものを見失ってしまうという内容である
" ピッグ "犬がインテリを象徴した動物なら、豚は資本家を象徴している動物、犬に関する批判はいろいろ
屈折した部分があって、わりと多面的にアプローチしているが、豚に関しては非常にストレートな表現が
用いられている
" シープ "羊は従順な労働者を象徴していて、曲はそうした羊たちに向けたアジテーションとして激しく
展開する…黙々とカツレツになる運命に甘んじていた羊たちが反乱を起こし復讐をと遂げるというわけだ
こうして" 犬 "と" 豚 "と" 羊 "の3曲を聴いてくると、このアルバムがピンク・フロイドの現代社会に
対する批判として成立していることがわかる
これはアルバム" 狂気 "で示した方向をよりはっきりと進めたものであり、前作" 炎 "でみせたちょっと
した迷いを吹っ切ったようだ
ただこのアルバムでのピンク・フロイドの社会構造に対する批判があまりにも図式的で新鮮味にかける
という批判は出てくるかもしれない
アルバムがどちらかというと啓蒙主義的すぎるのも事実だが、ピンク・フロイドはそうした批判に対し
回答も用意している…それが" 翼を持った豚・パートⅡ "である
当時のピンク・フロイドは自然や宇宙などをなどをテーマにし、そのサウンドはより精巧により美しく
なってきていて、今回はより優雅さを増すかもしれないと思っていたが、実際はその期待をまったく
裏切られてしまった
テーマはまさに人間社会の風刺であり、「 鳥獣戯画 」的なものでサウンドには彼らの開き直り的な
荒々しさを持っていた
普通、円熟味に入った音楽には時代に迎合した安らぎがあり、鋭い部分も角が取れて丸くなることが多く
これは創作側、そして聴く側の両方に共通している
そんな甘い期待をこれほどまでに打ち砕いたピンク・フロイドの姿勢に感心した