私小説フォーク的サウンドを切々と歌い上げる
情景描写が美しい
因幡晃のファースト・アルバムで、90週間以上もオリコンLPチャートにランクされるなどロング・
ヒットとなり、" わかって下さい "は因幡晃のデビュー・シングルである
1976年2月に発売されて60万枚以上を売り上げる大ヒットを記録した
1975年秋の第10回ヤマハ・ポピュラー・ソング・コンテスト最優秀曲賞、第6回世界歌謡祭入賞を
果たしている
作詞・作曲:因幡晃、編曲:クニ河内( コンテスト用編曲:船山基紀 )
1976年6月発売のこのアルバム" 何か言い忘れたようで "にも収録されたほか、1977年にはフランス語版
" Je savais que tu viendrais "も発売、ジャンルを超えたさまざまな歌手、演奏家によりカバーされている
§ Recorded Music §
1 貴方のいない部屋
2 別涙( わかれ )
3 夏
4 サンデー・モーニング
5 おぼえていますか
6 S.Yさん
7 わかって下さい
8 一年前の雨
9 夏にありがとう
10 アパートの鍵
11 つかまえててよ
12 秋田長持唄
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これが因幡晃の原点、嫌になるほど清々しい歌声が、ふとした情景描写を朗々と歌い上げてしまう
のだが、そこにはいつも男女関係のもつれや結末がある
因幡晃の新作はいつものように私小説フォーク的なものを引きずりながら、歌に深みを与えようと
積極的な面を垣間見せる
" わかって下さい " " 別涙 "だけでなく、若いころのダンディな歌や清冽な悲しみを歌ったもの、子供の
立場で母を亡くして姉に頼る歌もある
秋田県大館市出身で小坂にあった鉱山の技師だった彼は、鉱山と民謡が男のイメージだったようで
それで最後に" 秋田長持唄 "も歌われている
重厚なパイプオルガンのイントロ、澄んだ歌声と物寂しい歌詞、秋田県の炭鉱技師というプロフィールも
意外だった
セカンド・シングルの" 別涙 "も奥行き豊かなストリングスの音色とシャンソンそのものの哀感に満ちた
もので、この2曲だけで因幡晃のパブリック・イメージが確立されてしまったと言ってもいい
" 貴方のいない部屋 " " 夏にありがとう "など女性の立場の歌が目立つが、ブルージーでクールな
" サンデー・モーニング "、弾き語りで過ぎ去った人を回想する" S.Yさん "、アンサンブルから弾き語りに
変わってゆく萩田光雄のアレンジが秀逸な" つかまえててよ "、彼の歌の原点といえるアカペラの民謡
" 秋田長持唄 "など、45年以上前のリリースとはいえ今なお発見と感動が得られる
一曲ごとにバラエティ豊かで因幡晃の魅力を余すことなく伝えている名盤である
若い人は名前さえ知らない人も多いだろうが、ぜひ聴いてもらいたい1枚であり、時代を越えて伝わる
ものがあると思う
低音部からファルセットまで男声の魅力が満ちていて、ここまで叙情的に歌い上げるアーティストは
ほかにいない
このアルバムは、ヒット曲はもちろん、さまざまな情景を感じさせる構成になっていて、デビュー
当時の因幡晃に出会うことができる