パンクを期待してはダメ
このアルバムは、コンセプチュアルな前衛といえる構成になっている
ロックを解体し非ロックとして前衛化させる、そんな流れがあった80年代、多くは現代音楽や電子音楽を
取り入れ構築化し、リスニング・ミュージックになってしまうものだった
しかし、このバンドだけは違いコマーシャリズムを徹底的に排除し、本当にこれ以上削れないところまで
サウンドを解体してしまった
案の定、これ以降はやることがなくなりハード・ロック化しフェード・アウトしていく
バンドとしての体裁はもはや留めてなく、ベースレス、タムを多用しエスニックの要素が出てきて
珍妙なアラビア音楽のようになってしまっている
まるでキリスト教文化が中東に先祖返りしてしまったような時代感覚が狂う音楽、歌詞も意味不明の
羅列のようであり、社会風刺や政治批判のようにも聴こえる
ウィリアム・バロウズ的というかジョン・レイドンにしか書けない独自の詩作である
§ Recorded Music §
1 Four Enclosed Walls - フォー・インクロウズド・ウォールズ
2 Track 8 - トラック8
3 Phenagen - フェナジェン
4 Flowers of Romance - フラワーズ・オブ・ロマンス
5 Under the House - アンダー・ザ・ハウス
6 Hymie's Him - ハイミーズ・ヒム
7 Banging the Door - バンギング・ザ・ドア
8 Go Back - ゴー・バック
9 Francis Massacre - フランシス・マサカー
§ Band Member §
John Lydon - ジョン・レイドン( Vo,Vio,Sax )
Keith Levene - キース・レヴィン( G,Key,B )
Martin Atkins - マーティン・アトキンス( Ds )
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セックス・ピストルズ時代は「 未来なんてないぜ 」と叫んでいたジョニー・ロットンであったが、
ロットン( Rotten=腐れた )なんてしみったれた名前を捨てて、本名のジョン・レイドンとして未来を
作っていく決心をすることとなり、その証として結成したバンドの3作目が" フラワーズ・オブ・
ロマンス "である
前作の" メタル・ボックス "ではベーシストのジャー・ウーブルの存在が大きかったが、彼を欠いた
バンドが本作でとったアプローチがプリミティヴなパーカッションとギター・ノイズ、そしてレンドンの
ときにイスラムチックに聴こえてしまうエキセントリックな歌唱を三つ巴とした非常にミクスチャー色が
強い音楽性の創出であった
さらにレンドン自身がロンドン・パンクの寵児であったために、そこで培われた毒々しさもたっぷりと
注入され、それが化学反応を起こした結果はあまりに濃密で、かつ緊張感あふれる不協和音の創出であり
そしてそれはほかの誰とも似つかない特異な音楽空間を生み出すことになってしまった
ロック・ミュージックの本質は結局ドラムにあるんだと思う…技術に優劣を超越した強烈な個性を備えた
太鼓とシンバルがあれば、それだけでロックとして成立する
パブリック・イメージ・リミテッドを聴くたびにそんな感懐を覚えてしまう
甘美なメロディや過剰な装飾音、セックス・ピストルズ時代の遺産なんてクソ喰らえ、そういわんばかり
にあっちこっち揺らぎ続ける面妖なドラムのリズムと絡み、まとわりつくジョン・レイドンの呪詛
さながらの叫びはまったく潔く、徹底的にムダを削ぎ落としたロックの根源的な姿がここにある
傑作の2nd" メタル・ボックス "とともに予定調和的な音楽に辟易して人にこそお勧めである
ベーシストが抜けてスリー・ピース構成の中ひねり出した名作だが、その奇策はあくまで奇策であったの
かしばらく試行錯誤を繰り返した末に、次作の" コマーシャル・ゾーン "は捨てる結果になってしまった
" アバンギャルドもいいが、アバンギャルドのためのアバンギャルドではだめなんだ " " 人間の進化進歩
には限界がある、変化していくことが大切なんだ "とジョン・レイドンが言い出したのもこの頃で
方向転換の必要性や先鋭化しすぎてしまったことへの反省があったのかもしれない
個人的には" コマーシャル・ゾーン "の方向で最後まで完成させてほしかった