1990年発表のMicheal Lee Firkinsのデビュー・アルバム
エディ・ヴァン・ヘイレンとイングヴェイ・マルムスティーンの登場は、ロックのギターの流れを大き
く変えた
トレモノ・ユニットを大胆に使ったトリッキーなアーミング、フィンガー・ボードで両手によるタッピ
ング・プレイ、そしてマシンガンのように正確でスピーディな速弾き
1980年代は、1970年台では考えさえしなかった新しいギター・テクニックが次々と誕生し、ロック・
シーンは新たな時代に突入した
それらギター・テクニックのハイテク化はギタリストの表現力と可能性を飛躍的に拡大し、テクニック
はギタリストにとって武器となったが、そのハイテク化は逆にある種の弊害をも引き起こす
行き過ぎたテクニックの至上主義の誕生…より人より速く弾くこと、他人にできない自分だけの特殊な
ギター・テクニックをマスターすることは、ギタリストの宿命であるかのようにギタリストはテクニッ
クを磨いた
中には、欠落した音楽性をどうにかテクニックでカバーしようとするギタリストも生む結果となり、
ハイテク化はさらにエスカレートしていった
まるでオリンピックであるかのようにスピード競走は白熱化し、世界一と称するギタリストたちが
スピードを記録を更新した
さらには両手2本でギターを左右同時にプレイするなどという中国曲技団でさえ考えつかないような
ユニークな極者まで現れる始末となった
ギター・テクニックは本来、ギタリストの音楽性・個性を表現するためのものであったはずが、いつし
か独り歩きを始め、テクニックを見せるためにテクニックを磨くといったテクニック至上主義は必然と
行き詰まりをみせる
そんな混沌とした1980年代後半のギター・シーンの中からも、新しいタイプのギタリストが誕生してい
る中で注目だったのがマイケル・リー・ファーキンスだった
§ Recorded Music §
1 Laughing Stacks - ラフィング・スタックス
2 24 Grand Avenue - 24グランド・アヴェニュー
3 Runaway Train - ラナウェイ・トレイン
4 Cactus Blues - カクタス・ブルース
5 Deja Blues - デジャ・ブルース
6 Space Crickets - スペース・クリケット
7 Rain in the Tunnel - レイン・イン・ザ・トンネル
8 Hula Hoops - フラ・フープス
9 The Sargasso Sea - ザ・サーガッソ・シー
オープニングの" ラフィング・スタックス "を聴けばマイケルがいかにテクニックを持ったギタリストで
あるかすぐにわかる
そして、ギターのサウンドは" 音楽 "として見事に完成していて、とてもオリジナリティ豊かなものである
マイケル・リー・ファーキンス…このアルバム発表当時23歳、ネプラスカ州オハマで生まれ、8歳のとき
に父親からギターの手ほどきを受ける
彼はレーナード・スキナードがとても好きで、このことは彼のギター・スタイルの基盤を決定する大きな
要因ともなっっている
やがて、HR/HMの音楽に傾倒するようになり、ギタリストとしてハイテクなギター・テクニックをマスタ
ーするが、カントリー・ギターの名手アルバート・リーに魅せられてフィンガー・ピッキングとカポタス
トを多用した独自なギター・スタイルを考案する
後に、地元のスタジオで録った多重録音のデモ・テープがシュラプネルのマイク・バーニーの手に渡り
このアルバムに発展していく
このアルバムは聴いてのとおり、完全なインストゥルメンタルである
しかし、1曲1曲すべての曲にしっかりとしたメロディとテーマがあり、楽曲として見事に完成している
ロック・ギタリストのソロ・アルバムにありがちな貧困な曲作りや個性のないワンパターンの速弾きなど
はどこにもみられない
美しいメロディ・ライン、和音を上手く使ったギター・ハーモニー、ヘヴィなディストーション・サウン
ブルースやR&B、カントリーといったアメリカのルーツ・ミュージックのフレーバーを活かしたオリジナ
ルな音楽スタイル、フィンガー・ピッキングを多用した表情豊かなギター・トーン、そしてロック・ギタ
リストが最も大切にすべきグルーヴ感
高い音楽性、個性、グルーヴ感といったロック・ギタリストとして持つべき全ての要素を、完璧なギター
テクニックの裏付けによって見事に開花させた…という意味では音楽スタイルは異なるがジョー・サトリ
アーニと共通性を見出すことができるアルバムになっている