新たなレコード会社のもとに誕生した" Dream Harder "
予告どおり趣を異にしたロック色あふれる作品となった" ドリーム・ハーダー "だが、ロック・アルバム
ドリーム・ハーダーを語るに、この表現はあまりに浅薄で限定的すぎるように思える
確かに全編を走り回るハードで高揚感あふれるギターに、既存のファンは涙して喜び、新たに説得
されるオーディエンスも多く現れただろう
しかし、これは" マイク・スコット、トラッドを捨てロックへ回帰 "ではない
節操なく転換し続けるとみえたこれまでの方向性、ビッグ・ミュージックもアイルランドも力強く彼に
根付いていて整理されている
過去の放浪から蓄積されたものが、すべて惜しみなく披露されているし、曲のテーマ的にも決意表明、
宣言文的なナンバーと、自然や神秘主義を志向したものがほぼ交互に並んでいて、特に後者では
アイルランドの豊かな自然を連想させるイメージも多々登場する
§ Recorded Music §
1 The New Life - ザ・ニュー・ライフ
2 Glastonnbury Song - グラストンベリー・ソング
3 Preparring to Fly - プリペアリング・トゥ・フライ
4 The Return of Pan - ザ・リターン・オブ・パン
5 Corn Circles - コーン・サークルズ
6 Suffer - サーファー
7 Winter Winter - ウィンター・ウィンター
8 Love and Death - ラヴ・アンド・デス
9 Spiritual City - スピリチュアル・シティ
10 Wonders of Lewis - ワンダー・オブ・ルイス
11 The Return of Jimi Hendrix - ザ・リターン・オブ・ジミ・ヘンドリックス
12 Good News - グッド・ニュース
§ Band Member §
Mike Scott - マイク・スコット( Vo,G,Key )
Chris Bruce - クリス・ブルース( G )
Carla Azar - カーラ・アザール( Ds )
Scott Thuness - スコット・サネス( B )
また、巨大なスタジアムで鳴り響いて遜色ないギター・サウンドと共存するヴォーカライゼーションは
間違いなくアイルランド以降のものだ
まったく違う呼吸方法、唱法を獲得したことは、ボーランなどのトラット楽器の奏法とともにアイル
ランドで習得したもっとも大きなもののひとつだったとマイク自身が語っている
これは" 両極端 "とみえた二つの世界がマイクの内部で一体化し、ザ・ウォーターボーイズにまた新たな
ひとつの時代をもたらしたことを示すアルバムである
新たな時代とは、試行錯誤を重ねてきたアーティストが踏み出した成熟の時代の第一歩ともいえるだろう
マイク・スコットは、80年代以降に現れたロックン・ロール・ソング・ライターの中では間違いなく
五指に入る筆致の人である
特に言葉の持つ視覚的イメージを操る力は抜群で、しかも文学的表現を用いても人を煙に巻くような
不明瞭な詞は書かない
このアルバムでの表現は相当シンプルでストレートになっている
新たな生活と創作への熱を語る" ザ・ニュー・ライフ " " プリペアリング・トゥ・フライ "や、スピリ
チュアリティを歌う" スピリチュアル・シティ " " グッド・ニュース "などにこの傾向が顕著に出ている
一方で" サーファー "のようにダイレクトな感情表現も、かつてみられなかったもので、いずれも迷いの
ない彼の心境を反映していると同時に、彼独特のロマン、詩的世界は健在で往年のファンとして狂喜
ものの" ザ・リターン・オブ・パン "は" 自由への航海 "の中の" ザ・パン・ウィズ・イン "の続編的作品である
地球上の万物の神、音楽を愛する神でもある半人半獣の" パン "帰還を讃えるこの曲は、地球と人間の
関係についての危惧を伝えるとともに、音楽への愛情の確認であると思う
これは" プリペアリング・トゥ・フライ "も同様で、ここに出てくる" 彼女 "は間違いようもなく
" ロック・ミュージック "である
そして" コーン・サークルズ "、ニューエイジ民族の巡礼の地、スコットランド沖のヘブリデス諸島にある
巨石群など、自然の神秘的なものへの彼の尽きることなき憧憬も変わらないし、" ウィンター・
ウィンター "はごく初期のナンバー" ディッセンバー "を彷彿とさせ、雪解けのようなオープニングで
これに続く" ラヴ・アンド・デス "は、アイルランドの詩人イエィツの詩に曲をつけたものだ
マイク・スコットの詞、そして音楽に触れて思うのは" 憧憬の力 "である
そして特に" ドリーム・ハーダー "にいえば、浮世離れした夢と理想を山ほど抱えたいつもながらの
マイク・スコットが、それらを地に引き下ろしてみせて我々と共有しようという意志と力を持ったと
いうことである