英国寓話を題材に演劇的なパフォーマンスが
歌からも十二分に味わえる傑作というか快作
この1971年の作品からギターにスティーヴ・ハケット、ドラムにフィル・コリンズという2人を迎えて
ピーター・ガブリエル、トニー・バンクス、マイク・ラザフォードという5人のジェネシスの黄金期
メンバーが揃った
上述の2人の力量と影響は大きくて、スティーヴ・ハケットの硬質でテクニカルなギター・プレイと
フィル・コリンズのバイタルあふれるドラミングは凄まじく、これによってインスト部とコーラス部の
メリハリがさらに強力になり曲調もそれ故に劇的なモノが増えてきている
聴きどころは" 怪奇のオルゴール "で静から動へ12弦ギターの怪しげな音色に、フルートの儚い音色
空気を切り裂くように物語を発展させるスティーヴ・ハケットのプレイに、ピーター・ガブリエルと
フィル・コリンズの声質は似てながらも微妙に違うヴォーカルのコントラスト、ラストのガブリエルの
咆哮とまさにドラマな仕上がりとなっている
§ Recorded Music §
1 The Musical Box - 怪奇のオルゴール
2 For Absent Friends - 今いない友の為に
3 The Return of the Giant Hogweed - ザ・リターン・オブ・ザ・ジャイアント・ホグウィード
4 Seven Stones - セブン・ストーンズ
5 Harold the Barrel - ハロルド・ザ・バレル
6 Harlequin - 道化師
7 The Fountain of Salmacis - サルマシスの泉
§ Band Member §
Tony Banks - トニー・バンクス( Key )
Mike Rutherford - マイク・ラザフォード( B,G )
Peter Gabriel - ピーター・ガブリエル( Vo,Fl )
Steve Hackett - スティーヴ・ハケット( G )
Phil Collins - フィル・コリンズ( Ds,Vo )
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ドラムス・パートが一聴してすぐに判るほどに著しい変化を遂げている
フィル・コリンズは非常に細やかな音をトコトコと心地よく強弱をうまく制御し、緩急自在に的確に
打ち出し、非常に立体感ある且つ繊細なドラミングである
彼のドラムセンスは今後のジェネシスの音楽をあらゆる面で支えていくことになる
ギターの音の変化は、12弦ギターの音は大きく後退し、スティーヴ・ハケットによるエレキ・ギターの
細くてよくしなる牛蒡のような音のソロがあらゆる場面で楽曲に被さってくる
ハケットの音にはアンソニー・フィリップスのもっていた無垢の叙情とはいささか異なる雰囲気の叙情が
備わっていて、常に哀しみを帯びた、しかもその哀しみを半ば諦めきったようなペシミスティックな
色合いと同時にハード・ロック的な空気も多分に含んでいて、時折荒々しいプレイもほのみせる
日本でも" 怪奇骨董音楽箱 "の邦題で親しまれている作品、非常にプログレッシブらしいジャケットを
含めて演奏ともに充実した初期の傑作アルバムとなった
収録された曲はほとんどが佳曲といって良いものばかりだが、そんな中でもピーター・ガブリエルの
作詞の素晴らしさが伺えるバラードの" 今いない友の為に "、哀感あふれるメロディが素晴らしい
" セブン・ストーンズ "、そしてメロトロンを効果的に使用したドラマティックな" サルマシスの泉 "
などは傑出した名曲である
その傑出した" 今いない友の為に "は年老いた女友だちの2人が4人で教会へ通っていたころの想い出を
回想しつつ、今は亡きその友人に祈りを捧げる姿を描いた作品…この詞が書けるガブリエルの人間性と
才能に感服するとともに、曲そのものも感動に胸が掻きむしられる名曲に仕上がっている
クロケットのハンマーで頭を吹っ飛ばされてしまった可哀想な男の子で有名だが" 怪奇のオルゴール "の
特異さは、生きているシンシアちゃんではなくて、死んでいるヘンリー君の方を主人公にもってきて
いるところ…オルゴールに閉じ込められ好きな" オールド・キング・コール "を歌ってと呟くヘンリー君は
相当に恐ろしく、おそらく自分が死んだことに気づいてさえいない
この主人公になりきってしまうのがガブリエルで、次作の" フォックストロット "では、本当に見た幽霊の
ことを歌っているぐらいだから、相当にオカルトに憑かれた人だったのか…
ブラック・サバスが商売のためにオカルトを選んだことと対象的に、ジェネシスはマジメに幽霊や精霊の
存在を信じているんだろうなという気がする