柔らかさを増したヴォーカルや、ゆったりと感情を
高めていく演奏がバンドとしての余裕を感じさせる
ファーストがいわば真正面からのロック曲であったのに比べ、このセカンドは多分にソロ時代のカルメン
マキを彷彿とさせるようなバラードがメインを占めている
しかし、カルメン・マキがOZというバンドを得て信じられないくらいの歌唱力アップを遂げたことを
頭において聴くと、正直初期のソロ時代に比べ音楽に深みが増したことを実感する
本当のロッカーはバラードに真価があらわれる…そんな気にさせる名盤である
本当にこんな作品を知らなかったってことを後悔し、いま知ったことを感謝する…そんな1枚である
§ Recorded Music §
1 Introduction
2 崩壊の前日
3 振り子のない時計
4 火の鳥
5 Lost Love
6 閉ざされた町
7 Epilogue
§ Band Member §
カルメン・マキ( Vo )
春日 博文( G )
川上 茂幸( B )
川崎 雅文( Key )
久藤 賀一( Ds )
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世の中には" ロックってどんな音楽 "という問いに明確に回答してくれるアルバムがいくつかあるが
これもそのひとつといっていい作品だと思う
カルメン・マキの上手さとパワーを兼ね備えたヴォーカルに、春日博文のメロディックでエモーショナル
なギター、そして何といっても印象的なのは川上茂幸のベースである…唸りを上げて歪みまくるベース・
サウンドは圧倒的である
楽曲もヘヴィでありながら疾走感もあるハード・ロックにメロウで美しいナンバー、そして初期の
ブラック・サバスを彷彿とさせる陰鬱でヘヴィな雰囲気のハード・ロックがあったりと非常に充実して
いるし、歌詞も深みがあってとても良いと思う
普段洋楽しか聴かないという人も是非最初から最後まで通して聴いてみてもらいたい
このアルバムはヴォーカリストのカルメン・マキ、ギタリストで音楽的中枢である春日博文、そして
天才的な作詞家 加治木剛という取り替えのきかない3つの才能が極限状態で構築したほかに類をみない
コンセプト・アルバムで、" 崩壊の前日 "から" 火の鳥 "に至る前半の構成には、初期のキング・
クリムゾンの影響が濃厚である
しかし当時流行りであったコンセプト・アルバムのすべてがそうであったように、このアルバムが
哲学的で観念的なテーマに基づいて作成されていたら、カルメン・マキのヴォーカルはまったく無意味な
ものと化していただろう
しかしこのアルバムは、コンセプトそのものがカルメン・マキの圧倒的な女性としての存在感、無意識
まで根ざす女性的なパワーを引き出すことにあった
" ひとりの女の愛の終りに世界崩壊のヴィジョンが重なる "…それがこのアルバムのほかに類をみない
独創的なコンセプトだった
ときに崩壊の女神の如く絶叫し、また時にすべてを包み込む優しさに満ちた歌声を聴かせるカルメン・
マキと、彼女を巫女としてその剥き出しの根源的な女性としてのパワーを制御し、増幅する春日博文と
加治木剛、この3者の関係はやはり後期クリムゾンの方法論を彷彿とさせる
そして、タイトル曲においてはこのアルバムの驚くべきもうひとつのテーマが明らかになる
漆黒に塗りつぶされた愛の終わりを歌う" ロスト・ラヴ "を経て終曲" 閉ざされた町 "では冒頭の" 崩壊の
前日 "において恐怖とともに密かに待望されていた崩壊はついに訪れず、世界は時の止まった黄昏、
救いようのない永遠の静止状態の呑み込まれていく…そしてそれは闘争のすべてが敗北さえないまま
終息を迎えた70年代への挽歌にほかならない