いわゆる80'sポップスとは一線も二線も画す
アメリカン・ポップス史に残る名盤中の名盤
スティーリー・ダンは1980年の" ガウチョ "を発表後に活動を停止、その後に発表されたドナルド・
フェイゲンのソロ・アルバムが本作である
1950年代後半から1960年代初め頃にアメリカ北東部に育った若者が抱いていたはずの夢をテーマにした
コンセプト作となっていて、ジャケットやアルバムの雰囲気は何となく深夜放送のラジオを感じさせる
非常に滑らかでメロウな仕上がりで、一般にスティーリー・ダンの延長線上の作品として捉えられがち
であり、参加メンバーもラリー・カールトンら後期のそれそのものの豪華メンバーが参加しているが
ややマンネリ気味のグループとは違い、AOR的なサウンドの中にもフレッシュさすら感じさせ、何よりも
楽曲がさらに良くなっている
ソウルやジャズ/フュージョンを昇華したあのサウンドはもちろん健在である
§ Recorded Music §
1 I.G.Y. ( International Geophysical Year ) - I.G.Y.
2 Green Flower Street - グリーン・フラワー・ストリート
3 Ruby Baby - ルビー・ベイビー
4 Maxine - 愛しのマキシン
5 New Frontier - ニュー・フロンティア
6 The Nightfly - ナイトフライ
7 The Goodbye Look - グッドバイ・ルック
8 Walk Between Raindrops - 雨に歩けば
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このアルバムのコンセプト、それを具現化する各楽曲のアレンジ、コーラスなど、どれをとっても完全と
いってよく、非の打ち所のない仕上がりである
それでいて窮屈さはまったく感じさせず、むしろゆとりすらある作りには恐ろしさを感じる
50年代後半~60年代初頭にかけて、アメリカの若者が抱いていたはずの夢がテーマとなっているが
この時代背景、郊外の退廃的空気の中で彼らが描いたファンタジーとは、急成長する都市とは相反する
停滞の中での夢であろう…アルバム全体を支配するモノトーン調の雰囲気はそれを見事に表現している
それにしてもギターやピアノなど、各楽曲でソロをとらせた楽器やその音質などの的確さには恐れ入る
オープニング・ナンバーのタイトル" I.G.Y. "は、1957年から1958年にかけて行われた国際的な科学研究
プロジェクトである「 国際地球観測年 」のことで、ドナルド・フェイゲンは1950年代から1960年代
前半のムードを緻密に織り込んで極上のポップ・アルバムに仕上げている
当時社会現象にもなったミュージカル「 ウェスト・サイド・ストーリー 」を彷彿させる内容の
" グリーン・フラワー・ストリート "、1956年のドリフターズのR&Bナンバーをカバーした" ルビー・
ベイビー "、卒業までエッチを我慢しようねという甘酸っぱい名曲" 愛しのマキシン "、冷戦構造の中
ケネディ大統領が打ち出した制作を背景に、核シェルターの小部屋でデイヴ・ブルーベックに夢中になる
若者を描いた" ニュー・フロンティア "、AMラジオのDJ全盛時代を懐かしむタイトル・ナンバー
" ナイトフライ "、キューバ革命を一旅行者の視点でシニカルに描く" グッドバイ・ルック "、そして
アルバム全体のアンコール・ナンバーとして肩の力の抜けた" 雨に歩けば "全8曲、ほんとうに完璧である
とにかく完璧な音作りで、スティーリー・ダン時代よりも音やリズムのキレも良くなり、全体に明るく
ポップな感じになり、メロディやコード進行の相変わらずの斬新さが高度なバランスで共存している
本人もソロになって少し気が楽になったのか、やりたいことを全部ぶつけてきたのか、とにかく弾ける
センスという感じで、R&Bやジャズといった比較的オーソドックスな土台をドナルド・フェイゲン独特の
センスで再構築していくという彼の才能が凝縮されたアルバムである
曲だけでなく録音技術も最高レベルで、20世紀最高の名盤と推す人も数多く存在する
不思議なもので、このアルバムの内容はいわゆる売れ線のポップ・ミュージックとはかけ離れている
ものの、今聴いてみても新鮮なイメージがある