小説「 白雁 」にインスパイアされて制作されたサード・アルバム
CAMEL初のコンセプト・アルバム
ほかの同時代を生きたプログレッシブ・バンドのほとんどが、テクニカルなプレイでヘヴィなサウンドに
重きをおいていた感があるが、それとは対象的にこのキャメルは美しい叙情的なメロディで
ファンタジックな世界を構築していたという点で、派手さはないものの独自の個性を有していた
ポール・ギャリコの" 白雁 "がモチーフとなって制作された本作は、その哀しくも暖かみのあるストーリー
とキャメルのロック・バンドとしてのキャラクターが合致したユニークな作品である
人懐っこい楽しげなメロディが高度ながら楽曲の表情を大切にした演奏により次々と展開され、原作の
小説を彼らならではの切り口で忠実に表現している
柔軟な姿勢で題材を吟味し、腕を振るって調理したのが聴いてとれ、このバンドに相応しい逸品だ
§ Recorded Music §
1 The Great Marsh - グレート・マーシュ
2 Rhayader - 醜い画家ラヤダー
3 Rhayader Goes to Town - ラヤダー街へ行く
4 Sanctuary - 聖域
5 Fritha - 少女フリーザ
6 The Snow Goose - 白雁( スノー・グース )
7 Friendship - 友情
8 Migration - 渡り鳥
9 Rhayader Alone - 孤独のラヤダー
10 Flight of the Snow Goose - 白雁( スノーグース )の飛翔
11 Preparation - プレパレーション
12 Dunkirk - ダンケルク
13 Epitaph - 碑銘
14 Fritha Alone - ひとりぼっちのフリーザ
15 La Princesse Perdue - 迷子の王女さま
16 The Great Marsh - グレート・マーシュ
§ Band Member §
Andrew Latimer - アンドリュー・ラティマー( G,Vo )
Peter Bardens - ピーター・バーデンス( Key )
Andy Ward - アンディ・ウォード( Ds )
Doug Ferguson - ダグ・ファーガソン( B )
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ダグ・ファーガソンが最初に提唱したという本作は、映画「 ポセイドン・アドベンチャー 」の原作者と
しても有名なポール・ギャリコの短編小説「 白雁 」に感銘を受けて作り上げた
彼らにとって初めてのコンセプト・アルバムである" 白雁 "は、オール・インストゥルメンタルで曲間が
連続という特異なスタイルを打ち出しながらも、実験的な自己満足作品に陥らずに、各自が充分
アイディアを消化し尽くしたアンサンブル形態が取られていたという点が評価できる
それは、当時彼らが" 音楽性に自身を持つ "ことのみならず、" 自ら客観性を持つ "という必要付帯能力を
兼ね備えていたからである
第二次世界大戦、イギリスの大沼沢地帯グレート・マーシュの古びた燈台を舞台に、身体に障害をもつ
画家のフィリップ・ラヤダーと、傷ついた1羽の白雁を抱いた美しい少女フリーザとの友情から愛への
移り変わりを、キャメルは豊かな感性で表現している
全編が繋がっている壮大な演奏、しかも全てインストというスタイルなのに大仰な印象がまったくない
かといってメリハリが効いてないかというと、そういうわけではなくプログレらしい卓越した演奏技術も
充分に楽しむことができる…つまりアルバム1枚としてバランスが恐ろしくいいということだ
また随所に聴かせるリリカルともいえる流麗なフレーズが心地よく、荘厳なイメージをも生み出している
もっと悠長で冗長な音なのかと思っていたが、この引き締まり具合は意外な衝撃だった
やはり彼らはイギリスのグループで、全体を通して抑制が効いている点が、このアルバムをスムーズに
聴くことができる一番の理由だと思う
彼らの作品としては唯一のオール・インスト作であり、デヴィッド・ベッドフォードによるオーケストラ
も参加し、叙情性に満ちた非常に美しい作品であり、アンドリュー・ラティマーによるフルートの旋律も
耳にいつまでも残る
" ヴォーカルが登場しないのはキャメルの魅力を半減する "とかなんとか難癖をつけたいのではあるが
聴き終わった後では" それも止むなし "と納得してしまうなかなか聴かせる作品になっている
アンドリュー・ラティマーのヴォーカルがあってこそのキャメルだとは思うし、それだけに本作を彼らの
代表作といってしまうのは問題があるようにも思う
演奏も決してハイ・レベルではなく、雰囲気一発のピンク・フロイドに近いものがある
これがキャメルの全てではないし、本質ではないが名盤であることには間違いない