1984年に発表されたRoger Watersのファースト・ソロアルバム
このアルバムの原案は" ザ・ウォール "製作時に提示されていたが、内容が個人的すぎるという理由で
メンバーから拒否された経緯がある
このアルバム発表時、ウォーターズはまだピンク・フロイドに在籍しており、本作発表後の1985年に
正式に脱退を表明した
ピンク・フロイド時代の流れを汲むウォーターズ独特のコンセプト・アルバムで、そのストーリーは
神経症を患った主人公が見ている夢を、聴き手が同時進行で追っていくというもの
かなり難解な内容で、登場人物の相関関係もわかりにくく、基本的には妻との別れや新しい出会いを
通して主人公が人生の真実を悟るというストーリーになっている
各楽曲につけられた時間が、そのまま夢を見ている時間を示している
ゲスト・ミュージシャンとして、エリック・クラプトンやメル・コリンズ、アンディ・ニューマーク、
デヴィッド・サンボーンなど豪華なメンバーが招かれている
このアルバムではクラプトンのスライド・ギターが堪能できるアルバムとしても貴重で、クラプトンは
アルバム発売後のツアーにも途中まで同行していた
§ Recorded Music §
1 4:30 A.M. Apparently They Were Travelling Abroad - トラベリング・アブロード
2 4:33 A.M. Running Shoes - ランニング・シューズ
3 4:37 A.M. Arabs with Knives and West German Skies - ナイフを持ったアラブ人と西ドイツの空
4 4:39 A.M. For the First Time Today,Part 2 - 初めての出来事 パート2
5 4:41 A.M. Sexual Revolution - セックス革命
6 4:47 A.M. The Remains of Our Love - 愛の香り
7 4:50 A.M. Go Fishing - フィッシング
8 4:56 A.M. For the First Time Today,Part 1 - 初めての出来事 パート1
9 4:58 A.M. Dunroamin,Duncarin,Dunlivin - さすらう事そして生きる事をやめる
10 5:01 A.M. The Pros and Cons of Hitch Hiking - ヒッチハイクの賛否両論
11 5:06 A.M. Every Strangers' Eyes - ストレンジャーの瞳
12 5:11 A.M. The Moment of Clarity - 透明なひととき
前年に" ファイナル・カット "をリリースして1年後にこのアルバムを発表、アルバムの曲調は8ビートや
16ビートの踊れる曲がないという点では" ファイナル・カット "そっくりであり、" ファイナル・カット "
と対をなす作品といえる
ギターはエリック・クラプトンが参加し、デヴィッド・ギルモアとは一味違うギターを演奏している
このアルバムの曲名は時間になっているが、朝の4時ごろに聴き始めると各曲の始まる時間が曲名になる
という変わったアイディアでつけられている( 朝の4時に聴くような爽やかな内容ではない )
このアルバムのベスト・トラックはシングルになったクラプトンのギター・ソロがよい" ヒッチハイクの
賛否両論 "だろう…ほかにも" ゴー・フィッシング " " セックス革命 "などが聴きどころかと
このアルバムのコンセプトは77年ごろウォーターズがほぼ完成させていて、上述したようにピンク・
フロイドのメンバーに" ザ・ウォール "と" ヒッチハイク "を提示したら" ザ・ウォール "が取り上げ
られた、そのためにこのアルバムの中には" ザ・ウォール "の曲のメロディがチラッと再演されている
ピンク・フロイド活動停止後の初のソロ・アルバムで、全体的にテンションが張り詰めており、その
ままピンク・フロイドといった趣もあるような…ないような
内容は極めて難解ながら、一つ一つの楽曲の完成度は高く、ウォーターズのヴォーカルが消えたと
思ったら、轟音とともにクラプトン・ギターが炸裂するさまは圧巻で、クラプトンの凄さを実感した
" ファイナル・カット "は好きなアルバムなので、その延長線上のこのアルバムの音は好きだが、ピンク・
フロイドではないので、あれ程のマジックを感じることはできない
ウォーターズ抜きのピンク・フロイドは、いわば頭脳不在の肉体だけの音だが、このアルバムを聴くと
頭脳だけでもピンク・フロイドのような世界は作れないんだと感じる
ピンク・フロイド時代はリーダー格としてアルバム・コンセプトを担当し、" ファイナル・カット "では
第二次世界大戦のイギリスをテーマに鋭い切れ味を示した
それだけに、本作には期待したのだが完全に裏切られた感じがした…コンセプトだけに意識がいって
肝心のリスナーが置き去りにされている
小説家が自作を自分で映画監督として映画化するとき、失敗に終わるパターンがある
まず、セリフを切れないので編集が悪くダラダラとした展開が続く、ストーリーには自信があるが" 絵 "
として見せることは素人なので、カメラワークやコマ割に魅力がない、シーンの一つ一つのショットは
よいのだが、繋いで見てみると有機的につながらない
このアルバムはすべてこの条件にあてはまり、極論をいえば音楽的な感動は、皮肉なことにほかの
メンバーのソロ中、最低ランクだと思う
" 俺がフロイドだ "ということを証明したいあまり、誰の意見にも耳を貸さず独りよがりな作品になり
結果として" ロジャー ≠ フロイド "という正反対の結論を世間に証明してしまった