Pink Floydがアーティストとして一大飛躍を遂げた
1971年リリースのアルバム" MEDDLE - おせっかい - "
ピンク・フロイドの非人情系アルバムの最高傑作" おせっかい "
このアルバムの全体のトーンは" 水 "で、耳を覆う波紋の青みがかったジャケットに象徴されているし
前作" 原子心母 "で安らぎを覚えた人も、この" おせっかい "には少なからず不安を覚えるのでは
ないかと思う
そしてその不安こそが、ピンク・フロイドの真骨頂でもある
ロジャー・ウォーターズやデヴィッド・ギルモアがちょっと息を抜いたかのような優しくて心地よい
小作品もバランスよく散りばめられたピンク・フロイドが残した傑作の1枚で、この後の金字塔" 狂気 "
へとつながっていく、まさに上昇していく若者たちだった
中期ピンク・フロイドの残した幻想的な1枚でもある
§ Recorded Music §
1 One of These Days - 吹けよ風、呼べよ嵐
2 A Pillow of Winds - ピロウ・オブ・ウインズ
3 Fearless - フィアレス
4 San Tropez - サン・トロペ
5 Seamus - シーマスのブルース
6 Echoes - エコーズ
§ Band Member §
David Gilmour - デヴィッド・ギルモア( G,Vo )
Roger Waters - ロジャー・ウォーターズ( B,Vo )
Nick Mason - ニック・メイスン( Ds )
Richard Wright - リチャード・ライト( Key )
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前作" 原子心母 "が完成度、ジャケットなどを含めてピンク・フロイド中期の代表作ということになるが
オーケストラや合唱隊の力がかなりウエイトを占めた
この" おせっかい "はそういった外部のサウンドに頼ることなく、自分たちの生み出すサウンドだけで
勝負しつつ、高い完成度を築いた裏の代表作といえる
ジャケットからも窺うことができるが、淡い水のようなイメージをアルバム全体が支配していて
その中をゆらゆらと流れていくかのようなサウンドがほんとに気持ちいい
" 吹けよ風、呼べよ嵐 "のようなシンプルなインストゥルメンタル中心のナンバーがシングル・カット
されたこと自体、70年代前半の音楽シーンでは大変に異様であり、あまりにも斬新だった
" 吹けよ風、呼べよ嵐 "は、あれた天候の山麓にポイと放り出されたような心細さを感じずにはいられなく
ロジャー・ウォーターズの鳴らす地響きのようなベース音が恐怖を駆り立て、デヴィッド・ギルモアの
ギターは荒れ狂う風そのものだ
ウォーターズが左チャンネルでギルモアが右チャンネルによる不気味な二重のベース・ラインが鳴り響く
のが印象的な楽曲でもある
途中で聴かれる叫び声" One of these days,I'm going to cut you into little pieces( いつの日かお前をミンチ
にしてやる )"はニック・メイスンの声である
また、この曲は反則プロレスラーで有名だったアブドーラ・ザ・ブッチャーの入場テーマとしても
有名な曲でもある
1曲目の嵐が収束すると一転、土臭い雨上がりの香りを風が運んでくるような" ピロウ・オブ・ウインズ "
が始まり、ギルモアのギターもリチャード・ライトのキーボードも絶妙に溶け合い、ニック・メイスン
は控え目にマラカスのような音を鳴らしつつ最低限のリズムをキープしている
" サン・トロペ "は軽快に力を抜いて聴ける佳曲、" シーマスのブルース "は犬の鳴き声のブルース
この2曲は肩の力の抜けたいい意味で楽しく遊んでいる演奏を聴くことができる
このアルバムのハイライトは" エコーズ "( 原題:Return of the Sun of Nothing )
青白んだ海港に木霊するサイレンのようなギター・トーンが響く中、水の中で音を鳴らしているかのよう
な文字通り波紋を思わせるリックの揺らぎある演奏をバックにギルモアのブルース・ソロが流れ続ける
" Overhead the albatross hangs motionless upon the air… "
この想像力を掻き立てる歌詞、アホウドリが遥か上空で動きを止めて音もなく浮かんでいるような様が
脳裏に浮かんでくる
トリップ感が半端じゃなく否が応でも想像させることを余儀なくさせる曲展開、エレクトリック・ピアノ
の音こそピンク・フロイドそのものだと感じられる
歌のパートが終わると神秘的なギルモアのソロからジャム・セッション風のバンド・サウンド切り
替わり、よくダレるといわれる鳥の鳴き声や風の音だけの世界が展開、そして徐々に盛り上がっていき
混沌としたラストへ向かっていく様はまさにアート
これは神の世界なのか、それともドラッグの生んだサイケデリックな妄想なのか…ただただ圧倒され
つつそのように聴く者が想像をめぐらさざる得なかったことを思い出す