プランス・パリ郊外で約2週間でレコーディングが行われ制作された
映画『 ラ・ヴァレー 』のサウンド・トラック盤" Obscured by Clouds - 雲の影 - "
バーベッド・シュローダー監督の映画『 ラ・ヴァレー 』のサウンド・トラックで、" おせっかい "と
" 狂気 "という大作に挟まれ、イマイチ影の薄い感のあるアルバムだが、これがなかなかいい雰囲気を
醸し出している
" おせっかい "から" 狂気 "に向かって発展していく途中のピンク・フロイド・サウンドが聴くことが
できる貴重な1枚であり、デヴィッド・ギルモアのギター・サウンドはブルージーにトリック感を増し
リチャード・ライトのキーボードは異次元の虚空に響き渡り、ニック・メイスンのドラムが軽快な
リズムで響き渡る
そして全体をディレクションするロジャー・ウォーターズの構成、全体的にサウンドが荒削りな感が
ありながら、確実に個々の演奏レベルが音楽的に向上している
§ Recorded Music §
1 Obscured by Clouds - 雲の影
2 When You're In - ホエン・ユーアー・イン
3 Burning Bridges - 炎の橋
4 The Gold It's in the… - ザ・ゴールド・イッツ・イン・ザ…
5 Wot's…Uh the Deal - ウォッツ
6 Mudman - 泥まみれの男
7 Childhoos's End - 大人への躍動
8 Free Four - フリー・フォア
9 Stay - ステイ
10 Absolutely Curtains - アブソルートリー・カーテンズ
§ Band Member §
David Gilmour - デヴィッド・ギルモア( G,Vo )
Nick Mason - ニック・メイスン( Ds )
Roger Waters - ロジャー・ウォーターズ( B,Vo )
Richard Wright - リチャード・ライト( Key )
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" モア "と同様に伸び伸びと制作されたようだが、心なしか" 狂気 "の肩慣らしのように感じられる
楽曲が多い
テイクされている" 炎の橋 " " 泥まみれの男 " " ステイ "は" アス・アンド・ゼム "あるいは" 狂人は心に "
" 大人への躍動 "は途中まで前作" エコーズ "の雰囲気がある
" ウォッツ "などは" おせっかい "収録の小曲の流れをくむ佳曲になっていて、ピンク・フロイドは大作も
いいが、こういうデヴィッド・ギルモアのアコースティック・ギターとヴォーカルが魅力の小曲も聴き
逃せない
肝心な映画は、" 穏やかな生活をしていたフランス人女性が美しい羽に魅せられてニューギニアを
探検する…果たして彼女はフランスへ帰れるのだろうか "???である
まぁ、映画はどうあれ、アルバム自体はコンセプト色はあまりなく気楽に聴ける作品になっている
ロジャー・ウォーターズ単独作の" フリー・フォア "は、一見ユーモラスだが彼の父親への戦死がさりげ
なく言及されていて、後の" ザ・ウォール( 特に映画版 )"や" ファイナル・カット "へと繋がるモチーフ
の萌芽がみてとれ、アメリカのラジオでこの曲がエア・プレイされ、シングル・カットもされ、歌詞
付きの" ウォッツ "や" ステイ "では、ロジャーにしては素直で素朴な感情が語られている
" 大人への躍動 "はデヴィッド・ギルモアの作詞・作曲のロック・ナンバーで、彼らの隠れた名曲として
ファンの間で長年愛され続けている好曲で、リチャード・ライトのキーボードとギルモアのギターが
絶妙に絡んでいく様は筆舌に尽くしがたいものがある
しかし、この作品以後ギルモアは1987年に" 鬱 "を発表するまでバンド内では作詞を行っていない
アルバム・ジャケットのデザインはヒプノシスで、映画のスチール写真を使うことを決めて何度も写真を
見直した結果、たまたまピントがボケていたプロジェクターで映写したスライドを見て" これだ! "と
ひらめいたそうだ
この写真は" 木に登った男性が何かを取ろうと手を伸ばしている "もので、葉っぱの隙間から覗く光が
ピンボケのために丸く写り、幻想的な画像になっているんだそうだが…どうみても" 石原式色覚異常
検査表 "に見えてしまう
ピンク・フロイドといえば徹底した大作主義、妥協を許さない完璧主義として知られているが、限られた
製作期間の中、ラフな雰囲気で作り上げたアルバムで聴く側も力を抜いて楽しむことができるしロックを
芸術かつ商品として真剣に捉えていた彼らであるからこそ作り得た作品にして" おせっかい "と" 狂気 "
をつなぐミッシング・リンクのような1枚である