The Jimi Hendrix Experienceが
1967年に発表したデビュー・アルバム
イギリスで発売されたオリジナル盤は、既発のシングル3曲( " ヘイ・ジョー " " 紫のけむり " " 風の
中のメアリー " )は含まず、全て新曲で構成されている
ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスはデビュー・シングル" ヘイ・ジョー "が全英4位のヒットと
なり、本作発売日の5日前にロンドンでヘッドライナーとしての初公演を行うなど、ヨーロッパ圏での
人気を確立しつつあった
本作は、全英2位の大ヒットとなるが、ビートルズの" サージェント・ペパーズ・ロンリー・… "に阻まれ
1位獲得はならなかった
ギターのフィードバック奏法で始まる" フォクシー・レディ "、テープの逆回転を取り入れた" アー・ユー
エクスペリエンスト? "など、当初としては最先端の音作りを駆使しているが、その一方で伝統的な
12小節形式のブルース・ソング" レッド・ハウス "もある
§ Recorded Music §
1 Foxy Lady - フォクシー・レディ
2 Manic Depression - マニック・デプレッション
3 Red House - レッド・ハウス
4 Can You See Me - キャン・ユー・シー・ミー?
5 Love or Confusion - ラヴ・オア・コンフュージョン
6 I Don't Live Today - 今日を生きられない
7 May This Be Love - メイ・ディス・ビー・ラヴ
8 Fire - ファイアー
9 Third Stone from the Sun - サード・ストーン・フロム・ザ・サン
10 Remember - リメンバー
11 Are You Experienced? - アー・ユー・エクスペリエンスト?
§ Band Member §
Jimi Hendrix - ジミ・ヘンドリックス( G,Vo )
Noel Redding - ノエル・レディング( B )
Mitch Mitchell - ミッチ・ミッチェル( Ds )
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滅多に人を褒めることのないロバート・フィリップに" 純粋なる音楽の化身 "と、かのマイルス・デイビス
にも" 音楽を聴くための天性の耳を持つ "といわせ、世界最高を自負したジャコ・パストリアスが" 神の
命を受けて地上に降り立った "と賛辞を惜しまなかった男…ジミ・ヘンドリックス
それ以外も偉大なミュージシャンによる賞賛の嵐を目にするばかりで、正直彼の何がすごいのか長らく
わからなかった
歌の合間に入れ込む伝統的なブルース演奏も" レッド・ハウス "でデビュー作にして完璧にこなしてしまう
ギタリストとして、まず音のセンスがそれまでのどんな演奏にも見出せないこと、頭に響きわたる音を
思い切り開放したような印象がここにある
速弾きとかではなく" ストーン・フリー "のように閃きで音から音へ躍動的に動くプレイ・フリークで
あることを認識させてくれるし、ごく稀に存在するとされる音の逆回転を弾きこなしてしまう" アー・
ユー・エクスペリエンスト? "、製作者でさえ想像だにし得なかったスラストの大胆な奏法トラック
" キャン・ユー・シー・ミー? " " 今日を生きられない "、ジャコ・パストリアスもカバーした" サード・
ストーン・フロム・ザ・サン "など具体的な音のサンプルが満載である
自然にラップになってしまうヴォーカルもユニークだし、外見のワイルドさからは想像もできない
おとぎ話のように幻想的な詞の" メイ・ディス・ビー・ラヴ "も素晴らしいものだ
何より、同時進行で表現できる情報量が尋常でないところが、彼を空前絶後としているように思う
ロック・オンリーのフリークたちの知らないところで1967年7月17日、コレクティヴ・インプロビ
ゼーションというベクトルを指し示していたジャズの重鎮ジョン・コルトレーンが亡くなった
多くのジャズ・ミュージシャンの精神的支柱であった彼の死後、もうひとりの精神的支柱であるマイルス
デイビスがどう動くか、ジャズ全体が彼の動向に注目していた
それが60年代の終りのジャズの渾沌とした状況の中、マイルス・デイビスはジャズ・ファンクに突っ走る
なぜ、ジャズ・ファンクか…その答えは同じ1967年にデビュー作" アー・ユー・エクスペリエンスト? "
を発表したジミ・ヘンドリックスの音楽で、彼の音楽がいかにマイルスのジャズ・ファンク傾倒に火を
つけたかをロックを聴き続けて、この時期のマイルスの音を聴いた者は誰しも感じずにはいられない
一言でいってマイルスはジミ・ヘンドリックスの音を自分のものにしたかったのだ…マイルスはジミ・
ヘンドリックスとファンクしたくてたまらなかった
そして1969年8月の3日間、CBSのスタジオで録音された" ビッチズ・ブリュー "からマイルスが一時
沈黙するまでの間に演奏された作品群は、ジャズ・ファンクという強烈なベクトルに才能あるミュージ
シャンを次々と放り込み、その渾沌から何が見えてくるかをマイルス自身も同時体験した
本作はそういった側面すらもった作品だということである
" ジミ・ヘンドリックスの骨格をなす部分 "ファースト・アルバムはそんな感じがする
本当はもっと長い演奏時間のものをチャス・チャンドラーの意見で短くまとめられたといういうもの
なのだが、演奏、アレンジもさることながら、このアルバムは曲自体が良いものが多く存在している
ことが強みとなっている
彼の本領は実況録音に極まるのだが、その骨格となる彼のデビュー時代の本質がこのアルバムに堂々と
記録されている
この後のアルバムでは実験精神のほうが目立ってしまい、必ずしもその全てが成功したとはいえない
ものもあるのだが、このファーストの時点での立ち位置はしっかりとした黒人音楽の脊髄を持った
ものであった