レインボー・ヴォイスを持つ女…Cyndi Lauper
いわずと知れた彼女のデビュー・アルバム
シンディ・ローパーの" シーズ・ソー・アンユージュアル "を聴いて、彼女のキャラクター的な存在感しか
思い出せなければ、それを振り払って音楽だけに集中してみてほしい
実は彼女は素晴らしく情緒的な声を持っているのだ
彼女のヴォーカルはいたずらっぽく聴こえるが、しっかりとした強さ、アーティキュレーション、
ニュアンスがある
" タイム・アフター・タイム "は心の琴線を震わせ、" ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン "は
軽快、" オール・スルー・ザ・ナイト "は切なく、" シー・バップ "は強さを感じる
楽曲としてのアレンジも革新的で面白く、間違いなく1980年代の音楽だが、そのサウンドは時代遅れ
ではなく陽気だ
このデビュー・アルバムは彼女が自身を卑下したりパロディにしたものではなく、自分を讃えたものだ
§ Recorded Music §
1 Money Changes Everything - マネー・チェンジズ・エヴリシング
2 Girls Just Want to Have Fun - ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン
3 When You Were Mine - ホエン・ユー・ワー・マイン
4 Time After Time - タイム・アフター・タイム
5 She Bop - シー・バップ
6 All Through the Night - オール・スルー・ザ・ナイト
7 Witness - ウィットネス
8 I'll Kiss You - アイル・キス・ユー
9 He's So Unusual - ヒーズ・ソー・アンユージュアル
10 Yeah Yeah - イェー・イェー
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ニューヨーク生まれの彼女のキャリアは12歳ですでに始まり、フォークソングからオールディーズ、
ポップス、ロック、ブルースなどさまざまな洗礼を受けながら、この作品でシンディ・ローパーという
ある種ひとつのジャンルを築き上げたといっても過言ではない
それを象徴するものが、レインボー・ヴォイス( 7色の声 )をもつといわれ、曲のメロディや詞、また
リズムに合わせて変幻自在に操るセンスと技術、そしてもうひとつは彼女ならではの妖艶なるルックスと
他に類をみない独特の雰囲気によるところが大きい
さらにそれを後押ししたのが、時を同じくして世に生まれたMTVの力だった
ロバート・ハザードの曲に大胆なアレンジを施して大ヒットした" ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ
ファン "のプロモーション・ビデオは世界中で大きな話題を呼んだ
ジャケットにあるようなオールディーズ・スタイルでニューヨークの下町を愉快な住民たちを引き連れ
踊り歩く映像は、彼女のアーティスト像を一瞬にして世に知らしめ、それを観てアルバムを買い、
ファンになった人たちも多いはずで、これを観てから買うという音楽の流通の大きな変革がMTVによって
もたらされた時代であり、それを代表する作品でもあったということになる
アルバムの中身はオリジナルとカバーが半々で構成されているが、何といってもこの作品をプロデュース
したリック・チャートフ、後に彼女のバンド・メンバーとなるロブ・ハイマンとの出会いが大きい
彼らはシンディの秘められたポテンシャルを見事に引き出し、彼女の代表曲であり、未だに多くの
ミュージシャンにカバーされ続ける" タイム・アフター・タイム "や彼女の音楽の原点が透けて見える
ロック・ナンバー" シー・バップ "、さらにジュールス・シアーの名曲" オール・スルー・ザ・ナイト "
を小気味よいバラードにアレンジし、少女を思わせる可憐なヴォーカルを響かせる
ポップスを極めたかったはずのシンディ・ローパー、こだわりがある中で名曲揃いで、すでにマイルス・
タック&パティもカバーしたスタンダード" タイム・アフター・タイム "をはじめ、パンクにも興じていた
彼女の趣味も感じられる中、捨て曲なく一気に聴ける作品である
シングル・チャートに登場した曲も多い中、そうでない曲も非常によく、まさにガールズ・ポップで
曲が可愛らしい一方、辛辣な歌詞も多く、その意味でのメッセージ、こだわりが感じられる
単なるポップじゃないっていうのがタイトルのメッセージだし、こんなの歌っていいのかって歌詞もある
質素なんだけどしっかり伝えたいという一貫した彼女のスタンスがすでに感じられる
80年代に興じてみたい人は一聴して損はないし、この絶妙の軽さもある意味で時代…肩の力を抜いて
楽しもうという雰囲気がとても良く伝わる
構えて聴く作品ではないかも知れないが、とてもいい気持ちにさせてくれる