Sly Stoneという天才がドラッグにまみれながら
ほぼ独りで創りあげた麻薬のようなアルバム
特定の時期を明示しつつ時間を超越したタイムレスなアルバムというのがあるが" 暴動 "は、まさに
そんなアルバムのひとつに挙げられる
セクシーで陽気でありながら、決して傲慢なファンクまたはポップにならない曲をいくつか出した後
スライ・ストーンの曲折した才能はダークでムーディー、思慮深いが激しい怒りを含んでいる
しかしその深さのためにファンキーさが失われているわけではない
スライ・ストーンが語りかけたのは、混乱に陥っていた1971年のアメリカだけでなく、麻薬に侵されて
いった自分自身の生活でもあり、ヒット曲" ファミリー・アフェア "でさえ抑え気味で心を動かされる
ものがある危険な美しさを持ったアルバムである
§ Recorded Music §
1 Luv n' Haight - ラヴン・ヘイト
2 Just Like a Baby - 子供のように
3 Poet - ポエット
4 Family Affair - ファミリー・アフェア
5 Africa Talks to You 'The Asphalt Jungle' - アフリカは君に語りかける( アスファルト・ジャングル )
6 There's a Riot Goin' On - 暴動
7 Brave & Strong - ブレイブ&ストロング
8 ( You Caught Me ) Smilin' - スマイリン
9 Time - タイム
10 Spaced Cowboy - スペース・カウボーイ
11 Runnin' Away - ランニン・アウェイ
12 Thank You for Talkin' to Me Africa - サンキュー・フォー・トーキン・トゥ・ミー・アフリカ
§ Personal §
Sly Stone - スライ・ストーン( Vo,Ds,Key,G,B )
Rose Stone - ローズ・ストーン( Vo,Key )
Billy Preston - ビリー・プレストン( Key )
Freddie Stone - フレディ・ストーン( G )
Larry Graham - ラリー・グラハム( B )
Bobby Womack - ボビー・ウーマック( G )
Gerry Gibson - ジェリー・ギブソン( Ds )
Greg Errico - グレッグ・エリコ( Ds )
Little Sister - リトル・シスター( Bvo )
…etc
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それまで人種を超えた大所帯バンドを従え、はち切れんばかりに開放的なポップでダンサンブルな
サウンドを放っていたスライは、当時の時代背景もあり被害妄想に襲われるほど神経を病み、やがて
麻薬に依存するようになる
そんな中、CBSレコード会社の重役にニュー・アルバムを早く出せというプレッシャーをかけられ
仕方なく独りでリズム・ボックスなどを駆使して制作、オーバー・ダビングや被せはあるものの
セッションやらとは対極にある作業を積み重ね、結果的にはフィジカルなファンクを凌ぐ画期的かつ
独特なグルーヴを生むことに成功し、後に語り継がれる本作に至ることになるから皮肉なものだ
一聴しただけでは全編を覆い尽くすダークな感触しか残らないかもしれないし、加えてモコモコしていて
どこか陰鬱、密室に閉じ込められた鬱病患者の実験音楽のように響くかもしれない
一定期間聴き込むと、このアルバムに人生の大事なことのほとんどが詰まっているような感じがして
くるから不思議である
前作" スタンド! "がポジティブな夢への" 希望 "を描いたアルバムであれば、このアルバムは" 絶望 "という
言葉が一番相応しいかと思う
重く暗澹とした雰囲気がアルバム全体を覆い、ネガティブな言葉で綴られた歌詞が痛々しいほど
突き刺さってくる
一躍時代の寵児とまで駆け上がった彼がこの作品を発売するまでに一体何があったのか…それは
この作品が発売された時期と照らし合わせると見えてくる
公民権運動を率いたキング牧師の暗殺や、各地で起こる暴動、ベトナム戦争の激化やゲットーで暮らす
黒人たちの貧困…さまざまな社会問題がアメリカで発生していて" スタンド! "にて彼が説いた理想とする
世界はそこには無かった
もちろん彼が常用していた麻薬の影響もあるだろうが、スライ・ストーンを絶望と諦めに満ちさせて
しまう現実がこのアルバムを生み出してしまったのではないかと思う
" スタンド! "はヒット曲はあったが、結局は実験音楽であった
その後、スライの薬物中毒は酷くなり、またウッドストックなどでロックの限界をも知り、それでも
というか、それだからこそ続いてのアルバムを作らねばならなかった
そういう極限的な状況の中作られたこのアルバムは、" スタンド! "をはるかに超えた実験音楽となった
ここで聴かれる音楽は、いわゆる黒人音楽ではなく白人音楽でもない
さまざまな音楽を極めた知り尽くした者が出す音楽であり、リズム・ボックス、シンセサイザーなど
さまざまな電気楽器を使い、この前にもこの後にもない独特の音世界が提示される
自らの黒人としてのファンキーネスさえ、ここではひとつの道具でしかなく、ひたすら音の洪水で、
その洪水は不思議なことにとても静かなのだ
クールで沈み込むようなスライ流ファンクの魅力を堪能できるとともに、スライのもうひとつの魅力で
あるメロディ・メイカーぶりを発揮した" ファミリー・アフェア "や" スマイリン "などでの極上の
ポップ・センスも楽しむことができる