1973年発表のGary Moore Bandとしての唯一のアルバム
スキッド・ロウ時代にも多彩なプレイを聴かせてくれたゲイリー・ムーアだが、ガラッと作風を変えた
点に彼の野心が現れていると思う
ツアーで一緒に廻ったオールマン・ブラザーズ・バンドの影響も色濃いとはいえ、特筆すべきはヤン・
シェラース(key)のプレイを大々的にフィーチャーした大作の存在である
この後ゲイリーはコロシアムⅡ結成に動くわけだが、ドン・エイリー(key)獲得に固執したことなどを
考えると、コロシアムⅡに参加したと見るよりは、自分の表現したいプレイのためにジョン・
ハイズマン(ds)に接近したと見るほうが妥当である
ともかくこの後の彼の音楽的な変遷をすべてこの1枚に詰め込んだような作品だが、スキッド・ロウに
比べると大人しい印象を受けるかもしれない
また、各曲のスタイルの散漫ぶりに後の" バック・オン・ザ・ストリーツ "に近い印象もあるかも
しれないが、このアルバムのほうが洗練されていない分、逆にハッとさせられるプレイも多い
§ Recorded Music §
1 Grinding Stone - グラインディング・ストーン
2 Time to Heal - タイム・トゥ・ヒール
3 Sail Across the Mountain - セイル・アクロス・ザ・マウンテン
4 The Energy Dance - エナジー・ダンス
5 Spirit - スピリット
6 Boogie My Way Back Home - ブギー・バック・ホーム
§ Band Member §
Gary Moore - ゲイリー・ムーア( G,Vo )
John Curtis - ジョン・カーティス( B )
Pearse Kelly - ピアース・ケリー( Ds )
-- Additional Musicians --
Frank Boylan - フランク・ボイラン( B )
Philip Donnelly - フィリップ・ドネリー( G )
Jan Schelhaas - ヤン・シェルハース( Key )
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ゲイリー・ムーアが結成したグループの唯一の作品で、実質的なゲイリーのソロ・デビュー作とみてよく
基本的にはスキッド・ロウを踏襲したトリオ編成のグループとなっている
全曲がゲイリーのオリジナルでプロデュースとエンジニアにはマーティン・パーチが起用されている
" グラインディング・ストーン "はいかにもジャズ/ブルースといった趣のイントロダクションにより
そのフレーズを引き継ぐシャープな演奏が一層際立つアレンジの巧みさが光る1曲で、曲は典型的な
ジャズ・ロックだが、ソフト・マシーン的な雰囲気も感じさせつつもエッジが極めて鋭く、スキッド・
ロウ時代とは雲泥の差を感じるプレイである
この曲を聴いていると、なるほどコロシアムⅡ参加も当然だと思わさざるを得ない
ゲイリー以外の2人のメンバーの好プレイも聞きものだが、ヤン・シェルハースのキーボードも演奏の
中心のひとつになっている
" タイム・トゥ・ヒール "はラテンの雰囲気も加えたルーズで明るいブルース・ロックで、男臭い
ヴォーカルと陽気なギターがスワンプ・ロック的な雰囲気を出していて、豪快なギターは" グライ
ディング・ストーン "とはまた違った意味で聴き応えがある
" セイル・アクロス・ザ・マウンテン "は美麗なフュージョン・バラードで、この曲もコロシアムⅡに
直結する佳曲でフェイザーをかけたヴォーカルはブルース・ジョンストン( ビーチボーイズ )の得意技
" エナジー・ダンス "はピアノによるジャズ・バラード路線の曲でムーグがリードをとる珍曲だが際物感は
なくスタイリッシュに仕上げてあり、彼のセンスの神髄のようなものを感じる
キース・エマーソンなら絶対にありえない雰囲気で、演奏はハード&シャープだがハード・ロックと
いうよりも明らかにジャズ・ロック/フュージョンを中心にした内容、コロシアムⅡに直結する部分も
多い
コロシアムⅡを愛するジャズ/フュージョンのファンでもゲイリーの作品は無視する人も多いが
少なくともこのアルバムだけは必聴盤として押さえるべきで、ゲイリーは本作後、ジョン・ハイズマンが
立ち上げたコロシアムⅡに参加しその才能を一気に開花させる
ギター・メロディの執拗な繰り返しや撒き散らすようなヴォーカル・スタイルなど、当時のオールマン・
ブラザーズの影響がモロ出た作品で、おそらくこの作品を知らない人が聴いたら、これは70年代の
サザンロックだと思うだろう
ゲイリー・ムーアのギターというよりもバンドの放つサウンド、音楽性全体を味わうべき作品である
だが演奏はゲイリーならではの分厚くテクニカルなジャズ・ブルース&フュージョン・ロックで、
インスト中心で楽曲も長めだが、なかなか洗練されており大変聴きやすい
ここまで露骨にサザンロック的なアプローチで取り組んだ作品は、後にも先にもこれ一枚である
中にはサンタナのラテン・ロックっぽい曲まであったりするのだから、つくづく彼の素養の巾広さと
それを実際に実践してしまう行動力には頭が下がる