GENESISの雰囲気を残しながらもAnthony Phillipsの
牧歌的でアコースティックな持ち味を明確に示した作品
1977年発表のファースト・アルバム、アンソニー・フィリップスはジェネシスのオリジナル・メンバーの
一人であり、ジェネシスの2nd発表後に脱退した
ジェネシスの長い歴史において彼の存在は比較的地味だが、彼のこの作品を聴くと彼がジェネシスに
与えた影響がどれほど強かったかというのがよく分かる
影響を与えたというよりも、おそらく彼がジェネシスという型を作り上げたと考えるのが妥当だと思う
この作品では初期ジェネシスそのもののファンタジックな作風で完結されていて、彼の作品の中でも
すこぶる完成度が高いものになっている
スティーヴ・ハケットも同じようにジェネシスそのものの型をソロで再現してみせたが、アンソニーの
ほうはさらに繊細で静的要素が強くクラシック色が強い
§ Recorded Music §
1 Wind - Tales - ウインド - テイルズ
2 Which Way the Wind Blows - フィッチ・ウェイ・ザ・ウインド・ブロウズ
3 Henry ; Portraits from Tudor Times - ヘンリー : ポートレイツ・フロム・チューダー・タイムズ
1) Fanfare - ファンファーレ
2) Lutes' Chorus - リュートのコーラス
3) Misty Battlements - ミスティ・バトルメンツ
4) Henry Goes to War - ヘンリー・ゴーズ・トゥ・ウォー
5) Death of a Knight - デス・オブ・ア・ナイト
6) Triumphant Return - チライアンファント・リターンズ
4 God if I Saw Her Now - ゴット・イフ・アイ・ソー・ハー・ナウ
5 Chinese Mushroom Cloud - チャイニーズ・マッシュルーム・クラウド
6 The Geese and the Ghost - ギーズ・アンド・ザ・ゴースト
1) Part 1 - パート1
2) Part 2 - パート2
7 Collections - コレクションズ
8 Sleepfall : The Geese Fly West - スリープフォール : ザ・ギーズ・フライ・ウェスト
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いかにもイギリスらしい丘の上に吟遊詩人が座り、その向かいの泉からは半透明の妖精が立ち上がって
いるという、まるで良質の絵本の挿し絵のようなジャケットは、これだけでも持っている価値があると
思わせるに充分なもので、この童話的な美しいジャケットのイメージ通りの実に穏やかなアルバムである
この作品を極端に表現するなら、繊細、幻想的、英国貴族的優雅さということになるだろう
自身の爪弾く柔らかなアコースティック・ギターの音色、ピアノ、シンセに加えフルート、チェロ、
オーボエなどをゲストに迎え、英国中世風のクラシカルなイメージをうっとりするくらいの繊細な
サウンドで表現している
マイク・ラザフォードやフィル・コリンズが参加していることもあり、曲によっては初期ジェネシスの
幻想美をそのまま抽出したようなイメージで、流行りやコマーシャリズムとは無縁の緩やかな時間に
生きる繊細な感性の結晶がここにある
本作はジェネシス脱退から7年経った後に発表された作品で、その間に自身のスタジオ" ファームヤード "
を設立したり、ピアノを習ったりクラシックなどの音楽理論を学んだりしていたようで、この彼の
音楽に対する姿勢がとても美しく思える
ジェネシスの旧友マイク・ラザフォードと多数共作していて、フィル・コリンズが歌い上げる" フィッチ
ウェイ・ザ・ウィンド・ブロウズ "は新しい世界へ旅立つようなファンタジーあふれる作品になっている
アンソニー・フィリップスを代表する永遠の1曲で、ジャケットのマンドリンを持った詩人が丘の上から
美しい景色を眺める…まさにジャケット通りの名曲である
アンソニー・フィリップスは作詞、作曲、そしてほとんどの楽器を自分で弾くこともあり、リズム・
セクションも含めてこの" 拙さ "がいいんだが、このあたりが好き嫌いの分かれ目になっているのかも
しれない…変に洗練されていない、素直・純朴な作品で、いい意味でポップ
傑作と呼んでも差し支えないと思うが、良作といったほうがしっくりくるような気がする
内ジャケットのイラストも含め、ジャケットの細部に至るまで愛情を注がれたピーター・クロスの
絵がとても音楽にマッチしている
12弦ギターや木管楽器の響きが美しいアルバムで、商業主義とはまったくかけ離れた自分のやりたい
音楽を心を込めてやる…そんな思いが伝わってくるような気がする