1970年代に話題となったシンセサイザー音楽の
草分け的な作品
バッハの偉大さを改めて認識させた作品集で、1960年代に開発され一世を風靡した電子楽器、モーグ・
シンセサイザーを用いてバッハの音楽を録音し、大ヒットしたアルバムである
バッハの作品がこれほど自由に編曲されたことはかつてなかったが、チェンバロで演奏されずとも
バッハはバッハ、その音楽から輝きは失われず、むしろどの作品にも音楽自体に" バッハ "の名が
しっかりと刻印されているという感慨を持って聴くことができる
§ Recorded Music §
1 Sinfonia to Cantata No.29 - カンタータ第29番より「シンフォニア」
2 Air on a String - 管弦楽組曲第3番ニ長調より「アリア」
3 Two-Part Invention in F Major - 2声のインヴェンションより第8番ヘ長調
4 Two-Part Invention in B-Flat Major - 2声のインヴェンションより第14番変ロ長調
5 Two-Part Invention in D Minor - 2声のインヴェンションより第4番二短調
6 Jesu,Joy of Man's Desiring - カンタータ第147番より「主よ、人の望みの喜びよ」
7 Prelude and Fugue No.7 in E-Flat Major - 平均律第1巻より「前奏曲とフーガ」第7番変ホ長調
( From Book1 The Well-Tempered Clavier )
8 Prelude and Fugue No.2 in C Minor - 平均律第1巻より「前奏曲とフーガ」第2番ハ長調
( From Book1 The Well-Tempered Clavier )
9 Chorale Prelude 'Wachet Auf' - 「6つのコラール」より第1曲「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」
10 Brandenburg Concerto No.3 G Major-First Movement -ブランデンブルグ協奏曲第3番ト長調 第1楽章
11 Brandenburg Concerto No.3 G Major-Second Movement - ブランデンブルグ協奏曲第3番ト長調 第2楽章
12 Brandenburg Concerto No.3 G Major-Third Movement - ブランデンブルグ協奏曲第3番ト長調 第3楽章
|
1964年に発表されたモーグ・シンセは、マニュピレーターのウォルター・カルロスとともに変調され
この驚くべき作品を生み出し、バッハ本人が夢見ていたであろう本来のインヴェンション的構成の魅力を
存分に引き出してみせた
これは、ただシーケンサーを打ち込んで電子音を出力しただけというようなものではない
強弱速遅に揺らぐ演奏の味付けはもちろんながら、音色を設計し組み上げることが編曲に匹敵する創造的
作業であることを思い知らせる
息をつく暇すら与えず押し寄せる旋律は、窒息しそうな快感に変わっていき、バロックの旋律はそのまま
に音源はあくまでピュアな電子音で現代の音楽に慣れてしまっている耳には新鮮そのものである
制作当時の写真を見ると部屋一面が機械のかたまりで現在では考えられないほどの設備を使ってこの
音は出来上がっている
バッハの音楽の抽象性の高さ、つまり演奏楽器の音色に依存する度合いが少ないことがよく指摘され
実際バッハが指定した楽器以外で演奏されたり、あるいは晩年の作品では楽器が指定されていない
ことすらある
シンセサイザーというバロック時代の楽器と極端にかけ離れた電子楽器で演奏した本作がこんなにも
面白いのは、バッハの音楽の抽象性の高さの雄弁は証左で、同時に本作はシンセサイザーを世に広く
知らしめた歴史的な作品である
オリジナル盤は1968年で、その先見の明に驚くが、だからこそ再発売が繰り返されているのだが、
バッハの名曲の数々をシンセサイザーで忠実に演奏していて、普段クラシックを聴かない人には絶好の
バッハ入門となる
バッハ( クラシック )をシンセサイザー( モーグ )で演奏し、シンセサイザー・ミュージックを世界に
認めさせた歴史的アルバムで、単なる効果音作成機として、ちょっとギミック扱いだったシンセ
サイザーを楽器として世界に知らしめたともいえる…何となくパイプオルガン的
シンセサイザーの可能性を人々に認めさせて、その後エマーソン・レイク&パーマーやイエロー・
マジック・オーケストラに至る道を切り開いた
シンセサイザーによるクラシック音楽の演奏という点では、冨田勲などの諸作品の先駆けとなり
クラシック音楽への扉となった傑作であるので、多くの人に聴いてもらいたい