" Trilogy( 三部作 )"と題され、初めてメンバー3人の顔が
ジャケットに使われた
無尽蔵に思えたアイディアやモチベーションをある程度出し切った後の過渡期の佳作と位置づけられる
ことの多い本作、事実プログレッシブどころかやるかやられるか的な三つ巴の好戦的なフレーズさえ皆無
鍵盤にナイフを突き刺し、発音棒を振り回すキース・エマーソンはここにはいない
バート・ヤンシュやジミー・ペイジ、ロバート・プラントのようにイギリスのロック・ミュージシャンが
自国の民族音楽・ケルトなどの伝統に傾倒し、それを作品に投影する傾向が強いということはいうまでも
なかったが、枯渇した3人がその泉へ逃げ込んだとしても不思議ではなく、" タルカス " " 展覧会の絵 "
という高さの峰に留まる訳にはいかない事情があり、あえて一時" いにしえ "に思いを馳せ描いた大人の
絵本、それが本作である
§ Recorded Music §
1 The Endless Enigma Part 1 - 永遠の謎 パート1
2 Fugue - フーガ
3 The Endless Enigma Part 2 - 永遠の謎 パート2
4 From the Beginning - フロム・ザ・ビギニング
5 The Sheriff - シェリフ
6 Hoedown - ホウダウン
7 Trilogy - トリロジー
8 Living Sin - リヴィング・シン
9 Abaddon's Bolero - 奈落のボレロ
§ Band Member §
Keith Emerson - キース・エマーソン( Key )
Greg Lake - グレッグ・レイク( Vo,B )
Karl Palmer - カール・パーマー( Ds )
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プログレッシブ・ロックが本当にプログレスしていた時代、それが1970年代初期だが、それは新しい
アルバムが出るごとにファンが" もっと凄いもの "を期待していた時代ともいえるように思う
EL&Pの初期5枚のアルバムのうち第4作に当たるこの" トリロジー "は、その意味ではちょっと一休み的な
アルバムで、前作、前々作の" タルカス "や" 展覧会の絵 "と比較して、ここひとつ凄い感に欠けていて
また次作の" 恐怖の頭脳改革 "は、まさにもっと凄いアルバムだったから、この" トリロジー "はその
谷間の地味な作品という評価が定着してしまったのではないかと思う
しかし、別の見方もあるわけで、デビュー以来つんのめるように先を急いできたEL&Pが、ここでは一旦
立ち止まってじっくりと自分たちの音楽に向き合っているという印象が強く、聴く側のこちらもじっくり
と付き合える良作とも思われる
キース・エマーソンの作曲と演奏( 特にピアノ )は過去の作品よりもずっと丁寧に仕上げられていて
シンセサイザーの用法も取って付けたようなところがなくなり、多彩で効果的になっている
また同時代のライバルたちと比べてやや不安定だといわれていたカール・パーマーのドラミングも、
このアルバムでは重心の低さが出てきて、ずっとタイトでしっかりしたものになっている
キース・エマーソンの独特の世界観と圧倒的な技術、センスが炸裂した" トリロジー "、イントロの
アコースティック・ギターによる旋律も印象的なグレッグ・レイクの代表作" ホウダウン "、そして
そんな2人の才能にカール・パーマーが100万馬力のドラムで応えたことで生み出された彼らの一大傑作の
ひとつにして、1974年に発表された歴史的ライヴ・アルバム" レディース・アンド・ジェントルマン "の
オープニングを飾った名曲" ホウダウン "などを収めた個々の才能の飛躍的な進化が窺える小作品で構成
された完成度の高い1枚で、聴きやすさという点では本作が一番である
エマーソンの流麗なピアノに、絶妙のタイミングで絡むレイクのベース、そして畳み掛けるパーマーの
ドラム、なんて凄いトリオなんだろうと思わされる