迷いがないジャズらしいジャズ
1999年、パリにおけるスタンダーズ・トリオのライヴ盤
1990年代半ばにキース・ジャレットが体調を崩し、一時活動を休止していたが、その後見事に復活
その健在ぶりを鮮やかにアピールしたのが本作で、それ以前のスタンダーズ・トリオと決定的に違って
いるのは選曲である
本作もスタンダード集には違いないが、これまでのようにいわゆる映画やミュージカルが原点ではない
バド・パウエルに始まって、ベニー・コルソン、ディジー・ガレスピー、あるいはクリフォード・
ブラウンなどビバップからハード・バップ時代のジャズ・マンによって書かれたスタンダードを大々的に
取り挙げた結果、演奏はこれまで以上にエキサイティングでジャージーになっていて熱演の連続である
§ Recorded Music §
1 Bouncin' with Bud - バウンシング・ウィズ・バド
2 Whisper Not - ウィスパー・ノット
3 Groovin' High - グルーヴィン・ハイ
4 Chesea Bridge - チェルシー・ブリッジ
5 Wrap Your Troubles - ラップ・ユア・トラブルス・イン・ドリームス
6 Round Midnight - ラウンド・ミッドナイト
7 Sandu - サンドゥ
8 What is This Thing Called Love - 恋とはなんでしょう
9 Conseption - コンセプション
10 Prelude to a Kiss - プレリュード・トゥ・ア・キス
11 Hallucinations - ハルシネーションズ
12 All My Tomorrows - オール・マイ・トゥモロウズ
13 Poincana - ポインシアーナ
14 When I Fall in Love - ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ
§ Personal §
Keith Jarrett - キース・ジャレット( Pia )
Gary Peacock - ゲイリー・ピーコック( B )
Jack DeJohnette - ジャック・ディジョネット( Ds )
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" ザ・メロディ・アット・ナイト・ウィズ・ユー "で病気を克服したキース・ジャレットが久しぶりに
三者で演奏した記念すべき作品で、マンネリを超えて冴えをみせる三者のインプロビゼーション、
ノリにノッたキース・ジャレットの別世界通信、曲の世界が広がってビバップ、ハード・ビバップの
名曲がキース・ジャレットの手にかかり美しく力強く生まれ変わっているスタンダーズの真骨頂
これほど迫力のあるジャレットのピアノはそう聴くことはできないと思えるほど、このときのジャレット
は気力が充実していたのか、病気を克服した喜びがここまで明るく楽しい演奏を生んだ
華麗なスタンダードが堪能できる
今までとは違った切り口で迫る3人のプレイに" スタンダーズはやっぱり凡百なトリオとは違う "と
納得できるが、スタンダーズの凄さが現れるのは" 恋とはなんでしょう "がすごく、ジャック・
ディジョネットがジャズ界屈指の名ドラマーとは知っていたが、これほどのプレイをこんなにアッサリと
みせつけられたら、呆気にとられ言葉を失ってしまう
テンポを下げて" コンセプション "、バラードの" プレリュード・トゥ・ア・キス "、ミディアムの
" ハルシネーションズ "、スローな" オール・マイ・トゥモロウズ "、可憐なラテンの" ポインシアーナ "が
このアルバムの山場となっている
聴き流してしまうかのようなプレイの中で展開されるキース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、
ジャック・ディジョネットの才能、1年にもおよぶ休息は彼らの創造性に翳りを与えるどころか
さらなる表現力を与えてしまったのかと思わせるプレイで、こんなプレイを当たり前のようにしてしまう
この3人は化け物である
そしてこのアルバムがスタンダーズの再出発アルバムとしても映る
" 枯葉 "確立された反復メロディをもとに構築されるスタンダーズの長尺を封印したのは、ある意味
トリオの魅力減少という危険をはらむ選択だったと思うが、マンネリ化を避けるという意味では必要な
選択だったのかもしれない