壮大なシンセサイザー、さらに幻想的な浪漫の世界に誘う
このアルバム発表当時、ジェネシスは" デューク "を出した直後で、マイケル・ラザフォードが
"スモールクリープス・ディ "という素晴らしいソロ作品を出し、またフィル・コリンズが" フェイス・
ヴァリュー "というヒットはしたがそれまでのジェネシス・ファンが眉間にシワを寄せるような違和感を
覚えさせる作品を出し、ついにジェネシスはトニー・バンクスとジェネシスのマネージャーを長年務めた
トニー・スミスに言わしめる真打ちトニー・バンクスが登場ということで、当時はとてつもなく期待した
作品で、このアルバムは見事にその期待に応えてくれた
多少ポップであるのと、ジェネシスにはつきもののフィル・コリンズの紡ぎ出すビート感はないが
情緒感あふれる、まさにプログレ界のドビュッシーともいうべき素晴らしい音世界を展開させる佳作と
なってる
§ Recorded Music §
1 From the Undertow - フロム・ジ・アンダートゥ
2 Lucky Me - ラッキー・ミー
3 The Lie - ザ・ライ
4 After the Lie - アフター・ザ・ライ
5 A Curious Feeling - キュリアス・フィーリング
6 Forever Morning - フォーエヴァー・モーニング
7 You - ユー
8 Somebody Else's Dream - サムバディ・エルス・ドリーム
9 The Waters of Lethe - ザ・ウォーターズ・オブ・レテ
10 For a While - フォー・ア・ホアイル
11 In the Dark - イン・ザ・ダーク
§ Personnel §
Tony Banks - トニー・バンクス( Key,G,B,Per )
Chester Thompson - チェスター・トンプソン( Ds )
Kim Beacon - キム・ビーコン( Vo )
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メンバーはトニー・バンクス、チェスター・トンプソン、キム・ビーコンという編成で、収録曲は
ジェネシスそのものながら、キム・ビーコンの歌唱により適度にポップな感覚が施され、いい感じに
仕上がっている
プロデューサーがデヴィッド・ヘンツェルなので、ジェネシスを聴いている人であればわかる音である
これだという楽曲は正直ないが、アルバム全体を通して聴くことができ、トニー・バンクスの音が本当に
素晴らしく、トニー・バンクスの分厚いシンセサイザーとエレクトリック・グランド・ピアノを充分に
堪能できる作品になっている
彼のアルバムの中ではもっとも完成度の高い1枚で、トニー・バンクス・ファンはもちろん、
ジェネシス、プログレ・ファンも思わず納得の出来であり、かつてのジェネシスがポップ化した時期に
出された本作は、ジェネシスよりもジェネシスらしいとファンの間でも長く人気であった
繊細かつ美しいシンセ・ワークで、うっとりするようなサウンドが楽しめる一方で、爽やかな
ヴォーカルの入ったメロディアスな歌もの曲にも味わいがある
やはりトニー・バンクスのシンセは耳に優しく実に気持ちがいい
冒頭の" フロム・ザ・アンダートゥ "のサスティンの効いたトニーのキーボードはとにかく美しく、
幻想的なコード進行に心奮わせた
そして" ラッキー・ミー "、これもまた美しいハーモニーと聴かせるメロディが素晴らしい
本作とジェネシスの" そして3人が残った "、まるで双子のようなこの2作品を聴き比べると、トニー・
バンクスの当時のジェネシス内での影響力の強さ、立ち位置がよくわかる
煌びやかさと陰鬱さが表裏一体となるトニー・バンクス独特のキーボード・サウンドにドップリ浸かって
みたいときに、つい手にしてしまうのがこのアルバムである
トニー・バンクスの才能がほとばしっていた時期にソロ・アルバムを残していたのは正解だった
演奏の盛り上がる部分では、ここにフィル・コリンズのドラムが入っていたら最高なのにと思って
しまうのは求め過ぎか…
" トップ・オブ・テイル "から" デューク "の期間のジェネシスが好きな人であれば、まさにマスト・
バイのアルバムである